プログラム
9:30–10:00 2025年度JCAS年次集会
10:00–12:00 JCAS賞授賞式および受賞記念講演
13:30–16:30 一般公開シンポジウム
一般公開シンポジウム
物語を生きる身体:地域研究と社会を架橋する共創的学び
地域研究者は現地に身を置き、身体的経験を通じて地域を理解します。狩猟するバカの人々と熱帯雨林を歩き、カナダ先住民のワタリガラスの踊りに共振するなどの中で、研究者の身体には「語れる以上のこと」が刻み込まれます。人々のリズムに溶け入り、場との一部となる身体に宿った暗黙知は、臨地型の地域研究の核心的価値の一つではないでしょうか。従来、地域研究ではこうした体験的理解は言語化し、あるいは客観的なデータとして取り出すことにより、学術的知見として位置づけ、伝達することに重点が置かれてきました。その過程で、無意識のレベルで共有されるような物語や身体を伴う非言語的理解の次元は、しばしば削ぎ落とされてきました。
本シンポジウムでは、地域研究者の身体知について「物語」と「身体」をキーワードに考察し、如何にそれらを社会と架橋し、市民や児童の学びとして共有し得るかを探求します。「科学」は現象を細分化し分析していきますが、「物語」は関係のなかで生み出されます。人間が生きる上での「物語」の重要性は先人の多くが語るところであり、地域集団において、宗教的なものであれ伝説や民話であれ、物語はしばしば人々の存在や深い「心」の領域に関わるものです。身体と心は切り離せません。身体レベルで生きられる物語と共に地域の暮らしや相互関係があるという動態を、研究者も身体レベルで捉えているといえるでしょう。
では、そのような身体知はどのようにしたら社会の人々と共有可能でしょうか。そのためには、第一に社会の人々が身体的に参与することが必要です。第二に、研究者が一方的に知識情報を伝達するのではなく、人々とフィールドの空間や事象を再現する場の共有が望ましいでしょう。第三に、その場では「正しい地域理解」や「正解」ではなく、参与者のそれぞれの生きた解釈や感覚が生成されることが必要でしょう。議論の出発点として、映像・音・パフォーマンス・物語・空間・モノなどをマルチモーダルに組み合わせ、研究者と俳優と市民が、カメルーンやカナダなどのフィールドを教室に共創するマナラボのワークショップの事例を紹介します。すなわちそれは、エスノグラフィーとフィクションを交錯させるような演劇的な場となります。今回、物語に学ぶことや、演劇による学びについての知見を、地域研究の外部からも照射し、議論を深めたいと思います。 地域の人々が物語を身体で生きる動態を日本の市民や児童が自らと交錯させることは、単なる情報提供や「異文化理解」以上の意味があるのではないか。地域研究者の身体知は、人間が世界と関わる根源的な営みと通底しているのではないか。理論と実践の両面から、学術研究と社会実践を架橋する新たな地平を探ります。
シンポジウムプログラム
| 司会 | 園田浩司(新潟大学人文社会科学系准教授) |
| 13:30 | 開会の挨拶 柳澤雅之(京都大学東南アジア地域研究研究所 准教授) |
| 13:35 | 趣旨説明 飯塚宜子(京都大学東南アジア地域研究研究所 研究員) |
| 13:40 | 発表 報告①「本物でない本物─研究者の身体知を市民の身体知へと翻訳する」 飯塚宜子(京都大学東南アジア地域研究研究所 研究員) 報告②「日本社会で宗教文化を体験する─イスラームから考えるその課題と可能性」 長岡慎介(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 教授) 報告③「ワークショップは終わらない─狩猟採集民の生をめぐる集合的創造」 大石高典(東京外国語大学大学院総合国際学研究院 准教授) 報告④「“おままごと”っぽさはどこからやってくるか─舞台装置としての地域で「参加者」が生きる関係性」 園田浩司(新潟大学人文社会科学系 准教授) |
| 14:40 | 休憩 |
| 14:55 | コメント 渡辺貴裕(東京学芸大学教職大学院 准教授) F. ジャパン(俳優・劇団衛星) 床呂郁哉(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 教授) |
| 15:40 | 総合討論 |
| 16:30 | 閉会 |
※質疑応答、議論の状況によっては終了時間を超えて延長する可能性があります。
お問合せ先
地域研究コンソーシアム 事務局(京都大学東南アジア地域研究研究所内)
TEL: 075-753-9620
Email: jcasjimu[at]jcas.jp([at]は@に変更してください)