バチャン以前:初期東南アジアスルタン国の廃墟をマッピングする – CSEAS Newsletter

バチャン以前:初期東南アジアスルタン国の廃墟をマッピングする

Newsletter No.81 2023-05-10

R. マイケル・フィーナー

カシルタでの調査のため現地を訪問

インドネシア群島の東端に位置するマルク諸島北部、「スパイス諸島」の歴史は、この地域にあったテルナテ、ティドレ、バチャン、ジャイロロという4つのスルタン国の相互作用によって説明されてきました。このうちジャイロロはテルナテに征服され、1551年に事実上消滅しました。テルナテとティドレは16世紀以降、ヨーロッパの植民地勢力との複雑な関わり合いを通じてその名を世界的に知られるようになりました。対照的に、バチャンは歴史的に周縁に追いやられてきたスルタン国です。

カシルタにあるバチャン旧都の遺跡

この前近代国家の最も初期の歴史について書かれた資料はほとんどありませんが、地元では口述によって、王権の座がマカイン島から現在のバチャン島ラブハへと移っていったこと、その間15世紀にカシルタで長期の中断があったという記憶が何世紀にもわたって伝えられてきました。王座はまた、18世紀半ばの政治的混乱期には一時的にカシルタに戻ったとされています。

カシルタにある古いイスラム教徒の墓

今年の春先に、私は海域アジア遺産調査(MAHS)のインドネシア・フィールドチームとともにカシルタで、これまで地図に掲載されていなかったこの地に関する新たな記録を作成しました。私たちの目的は、東南アジアのイスラム社会でいまだ研究途上にあるこの地に関する実証的な資料を加えることでした。

廃墟と化した建造物の跡を発見する

伝統的なフィールドワークによる考古学的調査と航空レーザー計測技術のLiDARなどの最先端のデジタル技術を組み合わせることで、MAHSチームは、カシルタ・ダラムの村の対岸、川の西岸に広範囲に点在する王墓、さらには珊瑚石と石灰モルタルによる要塞跡などの建造物を確認することができました。

川を渡ってカシルタ遺跡に向かうMAHSインドネシアチームの調査員

インドネシアチームによって収集されたデータは、京都のデジタル遺産資料室で編集が行われ、まもなくオンラインアーカイブにてオープンアクセスで公開される予定です。

MAHS京都チーム

MAHSはインドネシア、モルディブ、タイ、ベトナムの現地調査を通じて、南アジア沿岸や島嶼部の歴史的・考古学的遺跡のデジタル文書化に取り組んでいます。私がプロジェクトリーダーを務め、共同研究者としてCSEASの石川登教授、南洋理工大学Earth Observatory of SingaporeのPatrick Daly主任研究員が参画しています。本研究所に拠点を置き、Lisbet Rausing、Peter Baldwin両氏の慈善基金であるアルカディア財団から資金提供を受けています。

カシルタ島から戻ってきたMAHSインドネシアチーム

MAHSのインドネシアチームはAhmad Zaki、Sofiana Sabarina、Fauzan Azhima、Rinaldi Ad、Nathasya Meutia Sari、Multia Zaharaの6名、京都ラボチームはMaida Irawani、Krisztina Baranyai、Shaun Mackey、Marcela Szalanska、Maria Eliza Agabin、河合深雪の6名のチームです。

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“Before Bacan: Mapping the Abandoned Site of an Early Southeast Asian Sultanate”
by R. Michael Feener