木村里子准教授、小川真由 海洋研究開発機構特任研究員(研究当時 京都大学大学院農学研究科博士後期課程)らは、水中で取得した超音波データから、小型鯨類スナメリの鳴音と船舶騒音を高精度に抽出する手法を開発しました。この手法は、特定の条件を満たした音イベントのみを抽出するルールベースフィルターと機械学習のアルゴリズムの一種であるランダムフォレストを組み合わせ、A-tagという水中の超音波を記録するパルスイベントレコーダーで取得したデータから、小型鯨類スナメリのクリックトレインと船舶騒音の超音波成分を高い検出率で抽出できるようにしたものです。本研究の成果は、海中の長期音響観測における解析負担を大幅に軽減し、多様で騒音の多い海洋環境に生息する小型鯨類の長期的なモニタリングや環境影響評価を支援するものです。
本研究はオープンアクセスの電子ジャーナル「Scientific Reports」(2025年8月25日付)に掲載されました。

小型鯨類はエコーロケーションのために超音波を複数まとめて発する。1つの超音波を「クリック」、複数のクリックのまとまりのことを「クリックトレイン」と呼ぶ

水中では約5秒に1度という非常に高い頻度でクリックトレインを発し、音の反響(エコー)を聴くことで環境を認知(エコーロケーション)する
共著者からひとこと
海の中で何が起きているかを“音”から理解することは、海洋生物の保全や持続可能な海洋利用に直結します。本研究がその一助になれば幸いです。本研究はJST創発的研究支援事業「水中音響リモートセンシングで駆動するアジア沿岸生態系の生態解明と環境影響評価」(JPMJFR2171)、科研費(JP18H06495、JP19K20460、JP22H05652)などの支援を得て実施しました。(木村)
これまでの音響モニタリングでは、膨大なデータを人の目で確認する必要がありました。根気のいる作業ではありましたが、その経験が今回の手法開発につながりました。本手法により解析の効率が飛躍的に向上し、スナメリの長期モニタリングがより簡便に容易に行えるようになりました。今後も未知なる海中音から新しい知見を得る挑戦を続けたいと思います。(小川)
研究者情報
木村里子 京都大学教育研究活動データベース
小川真由 Researchmap
書誌情報
| タイトル | A hybrid method combining rule-based filter and machine learning to detect porpoise and vessel sounds from a pulse event recorder |
| 著者 | Ogawa I. Mayu, Kimura S. Satoko, Ishiai Nozomu, Akamatsu Tomonari |
| 掲載誌 | Scientific Reports |
| DOI | 10.1038/s41598-025-16370-1 |
問い合わせ先
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京都大学東南アジア地域研究研究所
准教授 木村里子
E-mail: kimura [at] cseas.kyoto-u.ac.jp([at]は@に置き換えてください)
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京都大学東南アジア地域研究研究所
広報委員会
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