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〈研究成果の公開〉インドネシアのHIV感染者におけるC型肝炎治療後の免疫回復を解明

2025.10.16

オフィンニ ユディル特定助教(京都大学白眉センター特定助教)は、エヴィ・ユニハストゥティ インドネシア大学教授、山田千佳 本研究所准教授らの研究チームとともに、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者におけるC型肝炎治療後の免疫機能回復に関する新たな知見を明らかにしました。

この研究では、インドネシア・ジャカルタでHIVおよびC型肝炎ウイルス(HCV)の重複感染がある132名を対象に、12週間または24週間の直接作用型抗ウイルス薬(DAA:sofosbuvirおよびdaclatasvir)治療を行いました。治療前および治療終了12週後に採血を行い、免疫活性化に関連する主要なバイオマーカーを測定しました。

その結果は非常に有望なものでした。治療後、参加者の96%がHCVを完全に排除し、炎症や血管機能障害に関連するバイオマーカーが有意に低下しました。これらの改善は肝障害の有無にかかわらず見られ、進行した肝疾患においても、DAA治療が免疫的な改善効果をもたらすことを示唆しています。特に、アルブミン値が低い(すなわち肝機能が低下している)患者ほどバイオマーカーの減少が顕著であり、重度の肝障害を有する人ほどウイルス排除とDAA治療の恩恵を強く受ける可能性が示されました。

本研究は、東南アジア地域におけるHIV/HCV重複感染者の免疫学的変化を縦断的に追跡した初の報告であり、免疫および肝機能の長期的合併症を防ぐためには、早期のC型肝炎治療が極めて重要であることを示しています。

この成果は、学術誌「Journal of Medical Virology」(2025年10月6日付)に掲載されました。

共著者からひとこと

臨床研究が実施されたインドネシア・ジャカルタの
チプト・マンウンクスモ病院内HIV統合診療ユニット

かつて、C型肝炎の治療といえば、週に1回のインターフェロン注射が主流でした。しかしこの治療法は煩雑なうえに効果も限られ、私がジャカルタの病院で担当していた患者さんたちは、重い精神的副作用にも苦しんでいました。

米国で開発されたDAAの登場によって初めて、C型肝炎は高い確率で完全に治癒できる病気となりましたが、当初は治療費が非常に高額で、この病気の患者が多い低・中所得国では手が届きにくいものでした。そのため、DAAの免疫学的影響に関する研究はこれまでほとんど欧米で行われており、グローバルサウスからのデータはほぼ存在しませんでした。

近年、インドネシアでは、患者コミュニティなど市民社会による粘り強いアドボカシー活動と、保健省の取り組みによって、DAAが国民健康保険制度に組み込まれました。この治療法は、インドネシアでは比較的新しいものです。

今回の東南アジアからの画期的な研究により、DAAがC型肝炎を治癒させるだけでなく、特にHIVとC型肝炎の両方に感染している人々において免疫回復を促進することが確認されました。私たちは、C型肝炎の早期治療の重要性とともに、肝疾患の進行度にかかわらず、すべての人がこの画期的な治療にアクセスできるよう、さらなる障壁の解消が急務であることを強調したいと思います。(オフィンニ ユディル)

研究者情報

オフィンニ ユディル 京都大学教育研究活動データベース
山田千佳 京都大学教育研究活動データベース

書誌情報

タイトル  Longitudinal changes in immune biomarkers following direct-acting antiviral therapy in HIV/HCV-coinfected individuals in Indonesia
著者Yunihastuti E, Ophinni Y, Sari V, Adli I, Yamada C, Widhani A, Sanityoso A, Gani RA
掲載誌Journal of Medical Virology
DOI10.1002/jmv.70627

問い合わせ先

<研究内容に関する問い合わせ>
京都大学東南アジア地域研究研究所 / 京都大学白眉センター
特定助教 オフィンニ ユディル
E-mail:  yophinni [at] cseas.kyoto-u.ac.jp([at]は@に置き換えてください)

<広報に関する問い合わせ>
京都大学東南アジア地域研究研究所
広報委員会
問い合わせフォーム: https://bit.ly/4dAtaj9