冷戦期において、タイ国王プミポン・アドゥンヤデート(在位1946–2016)治世下のタイ王室は、タイ国内の安定、さらに東南アジアにおける共産主義の台頭を食い止める上で極めて重要な役割を果たしました。米タイ同盟のもと両国は緊密に協力し、国内の政敵から国境を越えた共産主義者に至るまで、プミポンの積極的な外交活動により、王室は君主制に対する様々な脅威に対峙してきました。パヴィン・チャチャワールポンパン教授は本研究において、東南アジアにおける安全保障戦略においてこれまで重視されてきた米国とタイ王室との同盟関係が、冷戦の終結により弱体化した要因を探ります。2016年に即位したワチラロンコーン国王は外交から距離を置く姿勢を見せ、王位に対する国際的な支持がもはや不要となったことを示唆しました。冷戦時代の義務から解放されたワチラロンコーン国王は、王室の関心を国内治安に集中させ、外交から次第に遠ざかっています。国王のこの姿勢は、王室にとって国内目的を果たさなくなった政治同盟が、今日では無意味であることを改めて示しています。
本研究は、学術誌「Royal Studies Journal」(2025年12月15日)にオンライン掲載されました。
著者からひとこと
本稿は、冷戦期から現代にかけて、タイ王室の国際的立場がいかに劇的な変遷を遂げたかを批判的に検証するために執筆されました。共産主義封じ込めを目的とした米国との緊密かつ戦略的な同盟関係によって特徴づけられたプミポン・アドゥンヤデート国王の治世と、現在のワチラロンコーン国王の時代との鮮明な対比を観察したことが執筆のきっかけとなっています。論文では、現代の多極化した世界において、王室の関心が国内治安へと退き、王位の安定に不可欠な生命線であった国際的承認が次第に不要となりつつあることを示そうと試みました。その中で東南アジア外交分析において支配的な「冷戦的思考」は現状にそぐわないことを指摘し、王室と米国の伝統的な同盟関係が、現在の国王にとって国内的な有用性を失っていることを論じました。国王は、ワシントンとの排他的な絆を正当化するために中国を敵と位置付ける準備も意思も持ちあわせないように見受けられます。最終的に本稿では、タイ王室が東南アジアにおける親米政権の中心的なプレイヤーから、より内向きで国際舞台から距離を置いた存在へと移行した理由を説明する概念と分析枠組みを提供します。
研究者情報
パヴィン・チャチャワールポンパン 京都大学教育研究活動データベース
書誌情報
| タイトル | No Longer Under the American Wing? The Thai Monarchy in Global Affairs |
| 著者 | Pavin Chachavalpongpun |
| 掲載誌 | Royal Studies Journal |
| DOI | 10.21039/rsj.478 |
関連書籍
Pavin Chachavalpongpun (ed). Rama X: The Thai Monarchy under King Vajiralongkorn, New Haven: Yale Southeast Asia Studies, 2023.
サムネイル写真について
His Majesty King Bhumibol Adulyadej addresses a joint session of the U.S. Congress on June 29, 1960 (出典:Wikimedia Commons: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:ATrelations0018a-1.jpg)
問い合わせ先
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京都大学東南アジア地域研究研究所
教授 パヴィン チャチャワールポンパン
E-mail: pavin [at] cseas.kyoto-u.ac.jp([at]は@に置き換えてください)
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