VISITOR’S VOICE


VISITOR’S VOICE


好奇心を胸に、火を灯す — セブ市の華人のビジネスコミュニティを探求する


ホセ・エレアザール・R・ベルサーレス

サンカルロス大学
CSEAS招へい研究員(2025年11月~2026年4月)

植民地期以前の考古学と独立後の歴史の双方の視点から、セブ島におけるセブアノ人と移民コミュニティの社会生活にずっと関心を抱いてきました。第2次世界大戦以前のセブ島の日本人社会については日本人研究者との共著がすでにあります。そのため、セブ市の華人に光を当て、特に彼らの商業活動と、今日までセブアノ社会に及ぼしてきた大きな影響を明らかにしたいと考えています。

略歴
CSEASでの研究概要

About Research


— これまでの研究で、最も意外だった、あるいは最も興味深かった点について教えてください。

フィリピン政府がこの50~60年間に推し進めたいわゆる「マイノリティ統合」政策の結果、二つのタイプの華人系のセブアノ人が生まれました。セブアノ社会に完全に同化した人たちと、自らのエスニシティや文化的慣習に引き続き強く結びついている人たちです。この分化は階層と対応していて、貧困層のほうがコミュニティとのつながりを含め中華的な要素を大方捨て去り、中華姓以外に保持しているものがありません。どちらのタイプであれ第3世代、第4世代の多くの「チノイ(Tsinoys)」(中華系フィリピン人は現在こう呼ばれている)は、先祖がセブ島に移住した事情をほとんど知りません。祖母(amah)が自分たち夫婦や、曾祖父母について話してくれたことをちゃんと聞いておけばよかったと、悔やんでいる者がたくさんいます。自分たちの過去を知り、過去とのつながりを復活させたくともできません。もう中国語を話せない者が多いですし、市の商業地区を襲った度重なる火災で家族の記憶をとどめる品々は残っていないからです。さらに、家族や故郷にまつわる無数の記録が戦争中に紛失し、風化していきました。

私自身、後悔していることがあります。一時、中華学校に通っていたのですが、北京語も福建語もきちんと学べませんでした。そのため、中文のテキストについては、特にグーグル翻訳が役に立たず、意味不明のおかしな訳になったりすると、華人系コミュニティの友人か昔の学友に助けを求めざるを得ません。これは、機械学習を用いる研究者が気をつけるべき重大な落とし穴です。言語の翻訳については、人間に勝るものはないです。しかし、研究対象者と良好な関係を築いていなければ、高くつくかもしれません。

Research Inspiration


— 研究するなかで、最もやりがいを感じることは何ですか。

ほとんど何も書かれていない白紙の状態に、わずかな書き込みを加えているにすぎないと実感するからこそ、過去について学ぶため話を聞ける人がまだいるうちに、この研究に取り組む必要があるという思いが湧いてきます。セブ島の華人系コミュニティ(特に、きわめて重要なアメリカ植民地期のビジネス分野)に関する研究はほとんどないので、この研究の意義は大きいと考えたいです。とはいえ、文献資料が少ないため、相当に困難な研究でもあります。他の東南アジア諸国での同様の研究に触れると、大きな刺激を受けます。そうした論文や著書を読んで、自分に言い聞かせます。「これこそ、セブ島でもっと早くにやるべきことだった」「著者たちに感謝!まさに自分が理解し、探し求め、そして書きたいと思っていることだ」と。

Societal Impact


— 長い目で見て、研究はどのように活用され、発展し、社会に貢献していくとお考えですか。

これは先駆的な試みですから、セブ島に限らずフィリピン各地の移民コミュニティの歴史研究に関心が高まることを願っています。同時に、セブ島の華人系コミュニティ内の研究者には、自分たちのエスニシティのさまざまな側面について、特により広範なセブアノ社会やフィリピン社会に関連する研究を深めてほしいと願ってもいます。私の研究はごく限られたものですが、より大きな炎へ広がる最初の火を灯すことができたのではないかと思っています。200年以上にわたって主にチノイによって育まれ、支えられてきた経済を持つこの都市において、その背景と今後の行方を理解する必要性は十分に大きく、他の研究者の研究意欲をかき立てる動機となるはずです。

Life Beyond Research


— 他の人が思ってもみない、意外なスキルや趣味をお持ちですか。

特にスペイン統治後期の切手の収集と、郵便史を調査しています。私にこんな一面があることを知っている人はごくわずかです。植民地時代にフィリピンで発行された切手を全部集めた著書を出版した際には、多くの人が驚きました。切手収集家(フィラテリスト)は、たった1枚の切手の研究に生涯を傾け、その切手について、切手の発行にまつわるさまざまなことについて何冊も本が書けます。私が切手を集め始めたのは、中華系の小学校に通っていたときです。切手の収集を通じて、細やかな記録の取り方、読書、分類整理、展示会への参加、人との出会いなど、たくさんのことを学びました。それがその後の考古学研究や歴史研究に必要な厳密さを身につけるのに役立ちました。最近、タイプライターの収集を始めました。この機械とその複雑な内部構造にずっと興味があったからです。シンプルなポータブルタイプライターであっても数百もの可動部品からできていて、修理するには細部にまで注意を払う必要があり、それはまさに研究活動と同じです。

Advice for the Next Generation


— 若手研究者や、あなたと同じ分野の研究者を目指す人へアドバイスをお願いします。

好奇心を持ち続けてください。さまざまな事柄や人がどうしてそのように振る舞うのか、問い続けてください。学生に何度も言っていますが、好奇心は知識を得るための第一歩です。好奇心がないなら、研究者を目指すべきではありません。研究、すなわち知識の獲得には、多くの文献をさまざまな角度から読むことが必要です。これまでにコーヒーを飲んだことがないなら、研究の道に進もうとするタイミングで飲み始めない方が良いかもしれません。なぜなら、何百、何千ページもの文書をくまなく調べたり、大量のマイクロフィルムを扱うとき、眠気覚ましのコーヒーが必要になるからです。コーヒーは研究と同じく中毒性があります。幸い、今は多くの図書館が資料をデジタル化し、一般に公開しています。こうした資料をダウンロードするには適切な検索キーワードを知っておかねばなりませんが、この新たなリソースを活用すれば、キャリア形成において、出版可能な成果を生み出す時間を大きく短縮できるでしょう。最後に、研究は楽しく、大きなやりがいをもたらすものです。誰も知らないことを発見したときは特にそうでしょう。いつもそのように研究と向き合えば、必ず成果があがり、やがて論文を発表する日が来るでしょう。

Looking Ahead


— 次はどのような研究をお考えですか。特に楽しみにしている進行中または計画中の研究プロジェクトはありますか。

CSEAS滞在中に中華系セブアノ人に関する原稿が完成したら、それをフィリピンで出版したいと考えています。フィリピン鉄道会社の歴史と、同社がセブ島におけるアメリカ植民地計画に果たした役割に関する原稿も完成させようと思っています。さらに、フィリピンの華人系の家族から依頼された原稿が2件あり、セブ島の大規模公益企業の社史も執筆しています。これらを終えたら、私にとってもう一つの情熱である考古学に立ち返り、セブ島の植民地期以前の歴史について書籍に纏めたいと考えています。また、フィリピンの植民地期以前の歴史に関する正確な年代編成を確立する上で重要となる、二つの遺跡の発掘資金を確保したいと思っています。

ホセ・エレアザール・R・ベルサーレス(通称ジョバーズ)
考古学者、社会史家。サンカルロス大学人類学・社会学・歴史学部教授および同大博物館館長を早期退職し、現在、同大セブアノ研究センター専門研究員。2025年12月まで国家文化芸術委員会(NCCA)の博物館委員会委員長として、同委員会の諮問委員を務める。セブ州政府の文化・遺産コンサルタントとしてスクボ博物館(セブ州立博物館)の運営を監督。2023年には大阪大学レーザー科学研究所マトリクス共創推進センター客員教授を務めた。遺産研究に関する著書・共著書を多数執筆しており、そのうち2冊はフィリピン国内で極めて高い評価を受けている。