足立 真理

足立 真理
部門・職位
政治経済共生研究部門
連携研究員
専門
インドネシア地域研究、イスラーム経済
研究分野/キーワード
・東南アジアにおけるイスラームの展開
・インドネシアにおける貧困、社会福祉
・イスラームの喜捨、慈善実践

足立 真理

総合的地域研究の方法論に基づき、ザカート(義務の喜捨)と呼ばれるイスラームにおける最重要信仰儀礼の一つを研究対象として取り上げ、現代インドネシアにおいてどのように実践されているか、その理念的変革と動態、現代的展開を探求してきた。
イスラームの根幹である五柱に挙げられるザカートは、ムスリムにとって最も重要な宗教的義務行為のひとつである。特筆すべきことは、五柱のうち、信仰告白、礼拝、断食、巡礼などの他の義務に比べて、ザカートが唯一の経済的行為だという点である。イスラーム法学上、ザカートには断食明けのザカートと資産ザカート(年間保有財産の40分の1[2.5%]を支払う成人ムスリムの義務)の二種類があるが、主に後者について研究している。
① イスラーム経済におけるマイクロファイナンス研究
近代イスラーム経済学とは、20世紀半ばにその原型が形成されはじめ、1970年代半ば頃から学問領域として認識されるようになった。そこでは、金融・財政のような具体的な経済システムの追求のみならず、イスラームの理念に基づいた経済発展や個人の経済行動の在り方のような模範的な研究に至るまで多岐にわたって論じられた。近年、ザカートを利用したマイクロファイナンスの研究が盛んであるが、それらは中間層や知識人階級の理念にとどまり、実際に金融機関を利用する側がどうやってマイクロファイナンスを利用しているのかについては十分検討されていない。そこで中長期フィールドワークに基づいて、そこに住む人々の視点からザカートの意義や役割の拡張について論じるために、一つの地域に限定して滞在し、管理者や受給者などの各アクターに聞き取り調査を行ってきた。


② ザカートの制度化研究
インドネシアにおいて長らく個人的儀礼であったザカートは、1980年代から高まるイスラーム復興によって、徐々に制度化が推進され、民主化直後の1998年にはザカート管理に関する法制化、のちに国家ザカート庁の設立も行われた。国民国家におけるイスラームの在り方を観察するうえでも、ザカートの変遷を追うことは重要なファクターであると考える。


③ 東南アジアにおけるイスラーム研究
人類学者のへフナー(1997)はこれまでの東南アジア・イスラーム研究は二重に周縁化されてきたとの指摘をした。つまり、東南アジア・イスラーム研究は、イスラーム研究と東南アジア研究の両者において、無視され、周縁に追いやられていたという主張である[Hefner and Horvatich 1997]。インドネシア地域におけるイスラーム研究についても、急激なイスラームの顕在化と社会的要請により、日本の学術界においても年々増加しているが、依然イスラームの内在的な理解を重視した上で、地域研究の視座から取り組むものは多くない。アラビア語資料および、インドネシア・ムスリム知識人の現地語資料の解析、中長期フィールド調査を含め、イスラーム学と地域研究の両方に根差した視座を持ちながら、インドネシア地域におけるイスラーム的な実践や現代的展開を考究する。