芹澤 隆道

芹澤 隆道
部門・職位
社会共生研究部門
機関研究員
専門
フィリピン史、日本思想史
研究分野/キーワード
・アメリカの影の下で歴史を描く:日本、フィリピン、そして「アジア主義」という問い
・1930年代フィリピンにおける共産主義思想の土着化に関する研究

芹澤 隆道

アメリカの影の下で歴史を描く:日本、フィリピン、そして「アジア主義」という問い

フィリピン、日本のいずれの場合においても、アメリカ合衆国はそれらを支配する際に新しい歴史を作り出した。発展、民主主義、自由を謳うアメリカ支配を正当化するために、フィリピンにとってはスペイン植民地支配期を、日本にとっては戦時期軍国主義を「暗黒時代」と位置付けた。解放のためには、平定させるために用いられたアメリカの暴力も、必要な罰として正当化された。日本人、あるいはフィリピン人の歴史認識のなかでは、アメリカのこうした暴力は認識されていない。アメリカが恩恵的にもたらしてくれた近代化のためである。今日このようなアメリカの対外政策は、中東において近代化と秩序をもたらすことができなかったアメリカの失敗によって、もはや有効ではなくなっている。さらに中国のプレゼンスの台頭は、アジアにおけるアメリカのヘゲモニーを衰退させている。本研究の目的は、アメリカのヘゲモニーが保障してきた平和や民主主義を問い直すことによって、フィリピン人と日本人の敗北経験の共有回路を探すことにある。

1930年代フィリピンにおける共産主義思想の土着化に関する研究

モスクワにおけるコミンテルン資料館にて、1930年代フィリピンにおける共産主義思想がどのように広まっていったのかについて調査を行った。そこで明らかになったのは、1920年代から30年代にかけてルソン島ではコロルムやサクダリスタと呼ばれる民衆蜂起が散発していたのであるが、それらの民衆蜂起にフィリピン共産党も参加し、アメリカ合衆国に庇護されたコモンウェルス体制を転覆させるという指令がコミンテルンから出ていたことである。実際にコロルムやサクダルのリーダーたちと共産党のリーダーたちは会合を行っており、従来の右派(民族主義)対左派(共産主義)という対立軸では当時の社会運動をうまく捉えることはできないことが判明した。