山田 千佳

山田 千佳
部門・職位
環境共生研究部門
助教
専門
公衆衛生、地域研究
研究分野/キーワード
薬物使用、ハームリダクション、社会運動、HIV/AIDS、ポスト・コロニアリズム、公衆衛生史
連絡先
chika128@cseas.kyoto-u.ac.jp

山田 千佳

ハームリダクション運動からインドネシア社会について学ぶ

ハームリダクションとは、薬物使用を禁止や削減することなく、薬物を使用する人たちの権利や尊厳を守り、市民権を回復しようとする活動や政策を指す。インドネシアではHIV・AIDS流行をきっかけに、90年代終盤から広まった。2000年代初頭には保健省事業に組み込まれ、オピオイド代替療法、注射針交換等のプログラムが全国展開されている。この政策転換を牽引し、草の根活動を支え続けているのが、市民社会である。市民社会は、保健省事業への協力やモニタリングのほか、アウトリーチによる感染症検査とカウンセリング、コンドーム配布、より安全な薬物使用に関する情報発信、刑務所への保健医療サービス導入、人権侵害への法的介入支援などを行っている。薬物使用が違法とされ、薬物取引には死刑も適用されるインドネシアにおいて、市民社会はハームリダクションをこれまでどのように発展させ、今日どう展開しているのか。その担い手はどのような社会を生きてきた人々なのか。市民社会と政府、国際機関等のステークホルダーは、どう影響し合うのか。保守主義とハームリダクションはどう交わるのか。文脈や時代背景に応じて、その運動はどのように変化してきたのか。本研究では、「逸脱」とされ、対象化されてきた人たちの生き方や考え方を学び、その立場から国家や権力、医療、公衆衛生について考える。そして、彼ら・彼女らが自分たちの状況を批判的に考察し、主体化しようとする運動について学ぶことを通じて、インドネシア、そして東南アジア地域への理解を深め、共生社会のあり方を探求することを目的とする。

略歴

山田千佳氏は、2020年に京都大学東南アジア地域研究研究所の特定研究員に着任、2022年より同助教。国立精神・神経医療研究センターの客員研究員。京都大学で看護、東京大学で公衆衛生、四川大学で中国語を学び、地域保健行政及びNGOに従事した後、2019年に神戸大学で博士号(保健学)を取得。
現在、インドネシアで薬物統制をめぐる社会史を学びながら、1990年代後半以降の薬物使用する人たちによる運動について調査し、ボトムアップの草の根の動きとトップダウンの公衆衛生政策との間にあるダイナミクスを批判的に追跡している。また、同国において、当事者と医療従事者が協働する物質使用障害の心理療法を開発・評価する研究や、精神作用物質の下水疫学手法の開発を行っている。ダイキン工業との産学共同プロジェクトでは、東南アジアにおける近代化と空調の社会史を学び、気候変動時代の都市居住を考える研究に携わっている。
これまで、健康と社会の接点に関心を持ち、東アジア及び東南アジアで定性・定量研究を行ってきた。過去の研究課題には、日本の自治体における生活習慣病の環境要因の地域比較、中国の地震後の精神保健に関する報道分析、フィリピン・マニラ首都圏における精神障がいをもつ人たちの被差別体験の質的研究、麻薬戦争の心理的な影響に関する疫学研究、日本における依存症をもつ当事者および家族の「体験談を社会に向けて話す」という体験に関する混合研究などがある。