地域研究叢書(和文)

タイ民主化と憲法改革立憲主義は民主主義を救ったか

地域研究叢書39
外山文子 著
2020年1月
392頁、ISBN: 978-4-8140-0253-5

タイの近代政治は苦難の歴史であった。立憲革命以降、実にクーデターが13回、その都度憲法が破棄され新憲法が制定された。本来、立憲主義は民主主義の「質」を高めるために導入されるはずである。しかし新興国では、それが大衆による政治的要求を抑え込むために導入されている。大衆のパワーが既得権益層の危機感を煽り、「立憲主義」の名を借りて強化された司法が民主主義を脅かしているのである。立憲主義を謳って制定された憲法が民主主義を破壊する、現代政治のパラドックスを鋭く抉り出す。

目次

プロローグ 民主主義への不信感は民主主義の限界なのか?

序章 タイ民主化を問う意義
1 なぜ今、民主化が問われるのか
2 理論的視座──立憲主義への再注目と政治の司法化
3 立憲主義と民主主義:タイ公法学者の論争

第1部 1990年代以降の憲法改革:契機と意図

第1章 二つの憲法──1997年憲法と2007年憲法
1 タイ民主化と憲法の歴史──1932年立憲革命から1991年クーデタ
2 憲法改革の起点──争点の変化
3 1997年“人民”憲法制定の背景と理念
4 2006年クーデタと2007年憲法制定
5 1997年憲法と2007年憲法──民主化と非民主化?

第2章 政治改革運動再考──タイ「立憲主義」とは何か
1 アモーンの「立憲主義」
2 民主主義発展委員会の構想
3 1997年憲法起草委員会
4 2007年憲法起草委員会
5 大衆への恐怖と憲法擁護規定

第2部 憲法改革と民選権力

第3章 憲法改革と執政権──タイ憲法における“国の基本政策方針”の政治的意味
1 タイ国内における「国の基本政策方針」に関する議論
2 タイ憲法における「国の基本政策方針」の変遷
3 内閣(執政権)への影響──施政方針演説の変化
4 タイ憲法「国の基本政策方針」の特徴
5 民主主義を抑え込むタイ立憲主義

第4章 憲法改革と立法権──抑え込まれるタイ立法権 選挙制度改革の分析
1 1991年憲法の改正:選挙制度改革の始まり
2 1997年憲法・2007年憲法による選挙制度改革
3 1998年政党法・2007年政党法の特徴
4 1998年選挙法と2007年選挙法の特徴
5 選挙制度改革がもたらした結果
6 政党と選挙を破壊する法改正

第3部 憲法改革と非民選権力

第5章 憲法改革と汚職取締り──汚職の創造:法規定と政治家批判
1 汚職の法的定義の変遷
2 汚職取締り状況と問題点──資産負債虚偽報告
3 汚職取締り状況と問題点──利益相反
4 汚職の「可能性」による取締り

第6章 憲法改革と司法権──憲法裁判所と憲法に基づく独立機関の制度的問題
1 機関設立の経緯と制度改正
2 1997年憲法──独立機関パッケージの登場
3 2007年憲法──独立機関パッケージの強化・拡大
4 憲法裁判所・独立機関に対する検査
5 憲法裁判所・独立機関による取締り
6 裁定の中立性・公正性
7 独立機関パッケージと「法による独裁」

第7章 憲法改革と「非民選」立法権──2007年憲法と上院 その新たなる使命
1 上院議員の人選制度
2 上院議員選挙および任命の結果分析
3 上院の権限の変化
4 憲法改正をめぐる争い
5 憲法裁判所判決と2014年クーデタ

終章 タイ民主化と憲法改革
1 タイ国民に与えた影響
2 二つの憲法への評価とタックシン
3 タイ民主主義と国王
4 得をしたのは誰か
5 タイ「立憲主義」「法の支配」の民主化への影響

エピローグ 2017年憲法を巡る攻防とタイ民主化の未来
1 新憲法起草の目的
2 二つの憲法草案の比較
3 国民投票とワチラーロンコーン国王による修正指示

あとがき
初出一覧
参考文献

関連情報

自著を語る 外山文子『タイ民主化と憲法改革』