相関地域研究

衝突と変奏のジャスティス

谷川 竜一(編著) / 原 正一郎(編著) / 林 行夫(編著) / 柳澤 雅之(編著)
A5判  260ページ 並製  定価 2600円+税
ISBN978-4-7872-3401-8 C0336

タイ、ベトナム、フィリピン、ラオスなどの宗教や食文化、住宅などを具体例に人々の営みをすくい取り、そこから価値判断や正義の衝突を調和する創造的な視点・エッセンスを抽出して、共存・共生する技法を見いだすためのロードマップを提言する。

解説

世界各地での衝突や紛争の激化、社会問題の肥大化、そして解決策の模索……多様な問題に対して、私たち一人ひとりの世界観も大きな転換と刷新を迫られている。多様な価値観を背景にした各国・各人の「正義」の衝突を調和し、共存・共生するための技法を見いだすためには何が必要か。
タイ、ベトナム、フィリピン、ラオスなどの宗教や食文化、住宅などを具体例に人々の営みを丁寧にすくい取る。そして、そこから価値判断や正義の衝突を調和する創造的な視点・エッセンスを導き出す。
人々の、あるいは国家間の衝突を解決するためのロードマップや実践的な作法を提言する「相関地域研究」第3巻。

目次

プロローグ 設計的視座から紡ぎ出す相関地域研究 谷川竜一/原 正一郎/林 行夫/柳澤雅之

第1部 問題の場所から可能性の場所へ

第1章 モニュメントの読み解きからみる南米ペルー社会 村上勇介
 1 ペルー社会の来歴と現状
 2 モニュメント『涙する目』を取り巻く空間
 3 民政下の暴力というペルーの特異性
 4 『涙する目』の意味と民衆による記憶の仕方

第2章 都市で村の首長を作る――カメルーン、バミレケ首長制社会を支える人々 平野(野元)美佐
 1 バングラップ首長制社会とK首長
 2 九貴族と新貴族
 3 新首長を作る
 4 首長の葬儀と新首長の誕生
 5 Y首長と妻のその後

第3章 食と宗教――北タイに生きる中国系ムスリム 王柳蘭
 1 多民族状況の北タイ
 2 ハラールの実践と信仰
 3 喜捨と共食儀礼――断食月の多文化状況

第4章 ポーズとフレーム――フィリピンの国民的物語の身体化 山本博之
 1 多言語社会フィリピンの同胞意識
 2 リメークとリミックス――舞台芸能と小説
 3 トレースとパロディ――コミックから映画へ
 4 フレームとポーズ――テレビから路地へ

第5章 三・七五度の近代――旧朝鮮総督府庁舎からみる建築設計の歴史的可能性 谷川竜一
 1 朝鮮王朝時代の光化門付近
 2 ソウルの道路網の改変と朝鮮総督府庁舎の建設
 3 三・七五度の連結、保存、そして露呈
 4 力を行使/制御する場所

第2部 共存と調和の技法に向けて

第6章 産後の食物規制のオルタナティヴな捉え方――ラオスでの産後の食物規制の「生きられた経験」へのアプローチ 岩佐光広
 1 ラオスでの出産と産後養生
 2 産後の食物規制の実施内容と先行研究での捉え方
 3 食物規制をめぐる「生きられた実践経験」へのアプローチ

[付記]第6章は、徳安祐子氏と共同でおこなった現地調査で得たデータおよび分析・解釈にもとづくものであり、徳安祐子・岩佐光広著「「実践」としての産後養生―ラオス南部の山地農村部における調査をもとに」(『日本保健医療行動科学会年報』Vol.27、213―225ページ、2012年6月)として発表した共著論文をもとに論考を展開したものである。本章において徳安氏の氏名および貢献について謝辞として明記すべきであった。ここに改めて徳安氏に謝意を表すとともに、深くお詫び申し上げる。なお、本章を引用・参照する際は、右の共著論文もあわせて参照されたい。(岩佐光広)

第7章 序列化する建材――インドネシアの恒久住宅 林 憲吾
 1 建物の恒久性
 2 植民地期の法令にみる建材の序列化
 3 戦後インドネシアにみる序列の継承

第8章 コロンボ(スリランカ)下町での地域学習塾開設プロジェクト――日常のデザイン行為から地域居住環境を考える 山田協太
 1 コロンボ下町の居住環境
 2 プロジェクトから紡ぎ出される下町の動態――地域学習塾開設プロジェクトのはじまり
 3 プロジェクトと下町との接続
 4 プロジェクトのつまずき――親族との接続不良
 5 プロジェクトの近隣への定着
 6 それぞれの夢の展開とプロジェクトの二転、三転

第9章 多様性から読み解く地域像――ベトナム紅河デルタの自然と人の関わり 柳澤雅之
 1 東南アジアのデルタを読み解く
 2 ベトナム紅河デルタの地域区分図
 3 主題図を重ね合わせる
 4 地域像の読み解き

第10章 生きている宗教と現代世界――東南アジア仏教徒社会からの考察 林 行夫
 1 二つの仏教――似て非なるもの
 2 慣行の仏教の日本仏教へのまなざし
 3 生きている宗教を伝えること――地域研究者の立場
 4 自文化中心の宗教と共存
 5 「概念」と「情報」の検証
 6 イスラームの憂鬱?

エピローグ ローカルからグローバルへ、グローバルからローカルへ 原 正一郎

索引

著者情報

谷川 竜一(タニガワ リュウイチ)
1976年、大分県生まれ。金沢大学新学術創成研究機構助教。専攻はアジア近代建築史・都市史、文化資源の空間論。著書に『灯台から考える海の近代』(京都大学学術出版会)、共編著に『記憶と忘却のアジア』(青弓社)、共著に『岩波講座東アジア近現代通史別巻 アジア研究の来歴と展望』(岩波書店)、論文に「一九三九年、烏口の記憶」(「Mobile Society Review」vol.14)など。

原 正一郎(ハラ ショウイチロウ)
1957年、千葉県生まれ。京都大学地域研究統合情報センター教授。専攻は情報学。共著に『歴史GISの地平』(勉誠出版)、『ナチュラルコンピューテーション1』(パーソナルメディア)、翻訳書にM・ジェームズ『人工知能BASIC』(啓学出版)など。

林 行夫(ハヤシ ユキオ)
1955年、大阪府生まれ。京都大学地域研究統合情報センター教授。専攻は東南アジア民族誌学、文化人類学。著書に『ラオ人社会の宗教と文化変容』、編著に『〈境域〉の実践宗教』(ともに京都大学学術出版会)、共編著に『講座世界の先住民族・東南アジア』(明石書店)など。

柳澤 雅之(ヤナギサワ マサユキ)
1967年、奈良県生まれ。京都大学地域研究統合情報センター准教授。専攻は農業生態学、ベトナム地域研究。共編著に『京大式フィールドワーク入門』(NTT出版)、共著に『国境と少数民族』(めこん)、論文に「自然科学分野の地域研究」(「地域研究」第12巻第2号)など。