東ティモール独立後の暮らしと社会の現場から

福武慎太郎 編著、土屋喜生 分担執筆
彩流社、2025年
440頁、ISBN978-4-7791-3022-9

編著者からの紹介

本書は、正式独立から今年で23年を迎えたティモール・レステ(東ティモール)民主共和国について、歴史、文化、政治などさまざまな視点から紹介することを目的としています。ふと気がついたのは、いま教室で私のまえに座っている大学生のみなさんは、東ティモールが苦難を経て独立を獲得したとき、まだこの世に存在しなかったのだということです。同時に東ティモールというと、いまだに紛争と暴力のイメージが強く、情報がアップデートされていないことも日々感じています。独立後、多くの研究者が東ティモールで調査をし、多くの論文が発表されているにもかかわらず、です。

独立から四半世紀が経過し、日本で東ティモールのことが報道され話題になることはほとんどありません。パレスチナやウクライナについての報道を考えると、平和であるというのはそういう事かもしれません。しかし平和になると無関心になるというのも寂しいと思います。理想と夢を掲げて独立したこの国が今、どのように平和を実現してきたのか、ティモールの人々は日々どのような暮らしを送っているのか、多くの人々に知ってもらえたらうれしいです。

目次

序章 ワニと十字架の国を歩く(福武慎太郎)

Ⅰ部 アジアの果ての新しい景色
第1章 言語の複数性がつくりだす東ティモールらしさ(奥田若菜)
第2章 アジアの果ての島に生きる─東ティモールの自然と農と人々の暮らし(阿部健一)
〈コラム〉パォンとカフェをたずねて(福武慎太郎)
第3章 国境の新しい景色─インドネシア領西ティモールから見たオエクシ国境地帯の暮らしの変化(森田良成)

Ⅱ部 復興する文化、創造される文化
第4章 「青年の十字架」に見る東ティモール社会─ルリックとカトリック(上田達)
第5章 精霊崇拝から見る死者と生者の関わり─オエクシ県のある家族と女性の死を事例に(麻場美利亜)
〈コラム〉ドルとスイギュウ─独立後に高まった貨幣経済と伝統経済(福武慎太郎)
第6章 法のなかの結婚、文化のなかの結婚(宮澤哲)

Ⅲ部 教育と開発の現場から
第7章 言語は誰のものか─教授言語方針の「ゆらぎ」にみる東ティモール的特質(須藤玲)
〈コラム〉バハサを話せます(上田達)
第8章 復興支援を目指す聖イグナチオ学院─東ティモールにおけるカトリック学校型教育開発モデル(浦善孝)
第9章 希望は若者たち(伊藤淳子)
第10章 国づくりと人づくり エゴ・レモスの挑戦(阿部健一)

Ⅳ部 歴史のなかのネイションと政治
第11章 現代東ティモールのナショナリズムと国家制度の運用(井上浩子)
〈コラム〉女性のエンパワメントとジェンダー秩序の変容(井上浩子)
第12章 二つの植民地経験と二つのナショナリズム(上砂考廣)
第13章 友人の物語から東ティモールをみる(宮澤なおり)
第14章 ティモール・レステの真の解放に向けて─独立回復後の20年の国家建設を評価する(マリアノ・フェレイラ)
第15章 東ティモールコミュニティ形成史試論(土屋喜生