相関地域研究 (叢書サブシリーズ) | 京都大学 東南アジア地域研究研究所

京都大学地域研究統合情報センターは、地域研究と情報学との学際的融合をはかる試みに挑戦しつつ、「地域情報学」と「相関地域研究」を二つの柱とした国際的な共同研究を進めてきました。そのうちのひとつのミッション「相関地域研究」を冠した3巻シリーズを青弓社から刊行しました。

21世紀の地域とは、連動し、影響しあい、それゆえ容易に変化する空間です。こうした急激に変化する地域を理解するためには、各地域の特性を明らかにするとともに、その地域がある種のアイデンティティを持ち得ていることを捉え、同時に、連鎖する複数地域とともに、世界においていかなる役割と意味をもっているのかについて、比較と関係性という二つのキーワードを用いて研究を試みるのが「相関地域研究」の手法のひとつです。

また、いかなる地域も、歴史的淵源の延長線上に存在しており、それゆえ複数地域のあり方も時代とともに変容する可能性があるわけです。こうした時代と地域との相関関係は、アジア域内といえども、それぞれの地域によって相当に異なっていることはもっと留意されてよいと思います。しかし、地域間で、なにが、どのように違うのか、その原因は何なのか、将来どのように変化していくのか、そのためにどのような関係を構築すべきなのか、多くの見解は提示されますが、それらの疑問が明確に答えられることはありませんでした。こうした疑問に答えるためには、地域を比較することでみえてくることがあるはずです。21世紀に生きるわたしたちは、これまでの時代との関係性のなかで、今後どのように生きていけばよいのか、いかなる選択肢が可能なのか、そうした問題を考えることも「相関地域研究」の課題のひとつといえます。

地域を比較し、その関係性を明らかにするという営為は、じつに多くの興味や好奇心、ときには意図しなかった驚きや発見をもたらしてくれます。ひとりでも多くの方が、本シリーズによってこうした営為の仲間入りをしてくださることを願ってやみません。

第3巻 谷川竜一・原正一郎・林行夫・柳澤雅之編著『衝突と変奏のジャスティス』(青弓社、2016年3月)

  • プロローグ 設計的視座から紡ぎ出す相関地域研究 谷川竜一/原 正一郎/林 行夫/柳澤雅之
  • 第1部 問題の場所から可能性の場所へ
    • 第1章 モニュメントの読み解きからみる南米ペルー社会村上勇介
       1 ペルー社会の来歴と現状
       2 モニュメント『涙する目』を取り巻く空間
       3 民政下の暴力というペルーの特異性
       4 『涙する目』の意味と民衆による記憶の仕方
    • 第2章 都市で村の首長を作る――カメルーン、バミレケ首長制社会を支える人々 平野(野元)美佐
       1 バングラップ首長制社会とK首長
       2 九貴族と新貴族
       3 新首長を作る
       4 首長の葬儀と新首長の誕生
       5 Y首長と妻のその後
    • 第3章 食と宗教――北タイに生きる中国系ムスリム 王柳蘭
       1 多民族状況の北タイ
       2 ハラールの実践と信仰
       3 喜捨と共食儀礼――断食月の多文化状況
    • 第4章 ポーズとフレーム――フィリピンの国民的物語の身体化 山本博之
       1 多言語社会フィリピンの同胞意識
       2 リメークとリミックス――舞台芸能と小説
       3 トレースとパロディ――コミックから映画へ
       4 フレームとポーズ――テレビから路地へ
    • 第5章 三・七五度の近代――旧朝鮮総督府庁舎からみる建築設計の歴史的可能性 谷川竜一
       1 朝鮮王朝時代の光化門付近
       2 ソウルの道路網の改変と朝鮮総督府庁舎の建設
       3 三・七五度の連結、保存、そして露呈
       4 力を行使/制御する場所
  • 第2部 共存と調和の技法に向けて
    • 第6章 産後の食物規制のオルタナティヴな捉え方――ラオスでの産後の食物規制の「生きられた経験」へのアプローチ 岩佐光広
       1 ラオスでの出産と産後養生
       2 産後の食物規制の実施内容と先行研究での捉え方
       3 食物規制をめぐる「生きられた実践経験」へのアプローチ
    • 第7章 序列化する建材――インドネシアの恒久住宅 林 憲吾
       1 建物の恒久性
       2 植民地期の法令にみる建材の序列化
       3 戦後インドネシアにみる序列の継承
    • 第8章 コロンボ(スリランカ)下町での地域学習塾開設プロジェクト――日常のデザイン行為から地域居住環境を考える 山田協太
       1 コロンボ下町の居住環境
       2 プロジェクトから紡ぎ出される下町の動態――地域学習塾開設プロジェクトのはじまり
       3 プロジェクトと下町との接続
       4 プロジェクトのつまずき――親族との接続不良
       5 プロジェクトの近隣への定着
       6 それぞれの夢の展開とプロジェクトの二転、三転
    • 第9章 多様性から読み解く地域像――ベトナム紅河デルタの自然と人の関わり 柳澤雅之
       1 東南アジアのデルタを読み解く
       2 ベトナム紅河デルタの地域区分図
       3 主題図を重ね合わせる
       4 地域像の読み解き
    • 第10章 生きている宗教と現代世界――東南アジア仏教徒社会からの考察 林 行夫
       1 二つの仏教――似て非なるもの
       2 慣行の仏教の日本仏教へのまなざし
       3 生きている宗教を伝えること――地域研究者の立場
       4 自文化中心の宗教と共存
       5 「概念」と「情報」の検証
       6 イスラームの憂鬱?
  • エピローグ ローカルからグローバルへ、グローバルからローカルへ 原 正一郎
  • 索引

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第2巻 村上勇介・帯谷知可編著『融解と再創造の世界秩序』(青弓社、2016年3月)

  • プロローグ 覇権大国不在の無秩序な世紀の到来 村上勇介/帯谷知可
  • 第1部 国家の動態、地域の変容
    • 第1章 ボーダースタディーズからみた世界と秩序――混迷する社会の可視化を求めて 岩下明裕
    •  1 ボーダースタディーズの三つのアプローチ
    •  2 世界の秩序を読み解く
    •  3 日本と周りの秩序を読み解く
  • 第2章 中東の地域秩序の変動――「アラブの春」、シリア「内戦」、そして「イスラーム国」へ 末近浩太
    •  1  「三十年戦争」の構図による「安定」
    •  2 「アラブの春」がもたらした「不安定」
    •  3 「イスラーム国」の台頭と中東の地域秩序の再編
  • 第3章 動揺するヨーロッパ――中東欧諸国はどこに活路を求めるのか? 仙石 学
    •  1 中東欧をめぐる国際環境の変化
    •  2 国際環境の変化への中東欧諸国の対応
  • 第4章 ラテンアメリカでの地域秩序変動 村上勇介
    •  1 アメリカ合衆国の覇権
    •  2 二十世紀終わりの歴史的転換と地域秩序再編
    •  3 二十一世紀のまだら模様
  • 第2部 越境のダイナミズム
    • 第5章 「非・国民」――新たな選択肢、あるいはラトヴィアの特殊性について 小森宏美
    •  1 境界の流動性と人々の自己認識
    •  2 「非・国民」とは何か
    •  3 国籍の意味の変化
  • 第6章 ロック音楽と市民社会、テレビドラマと民主化――社会主義時代のチェコスロバキア 福田 宏
    •  1 「正常化」時代の市民社会と娯楽
    •  2 前提としての一九六〇年代、転換点としての六八年
    •  3 グレーゾーンとしてのロック
    •  4 テレビドラマと体制の安定化
  • 第7章 社会主義的近代とイスラームが交わるところ――ウズベキスタンのイスラーム・ベール問題からの眺め 帯谷知可
    •  1 ウズベキスタンのイスラーム・ベール――パランジからヒジョブへ
    •  2 ベールをめぐる言説の形成
    •  3 ウズベキスタンのベールをめぐる言説
    •  4 「新しいベール」
  • 第8章 資本主義の未来――イスラーム金融からの問いかけ 長岡慎介
    •  1 イスラーム金融とは何か
    •  2 イスラームと資本主義
    •  3 イスラーム金融の叡智
  • エピローグ 地域から世界を考え、世界から地域を考える――相関地域研究の試み 帯谷知可/村上勇介
  • 索引

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第1巻 貴志俊彦・山本博之・西芳実・谷川竜一編著 『記憶と忘却のアジア』(青弓社、2015年3月)

  • プロローグ アジアからの記憶の召還技法 貴志俊彦/山本博之/西 芳実/谷川竜一
  • 第1部 二十一世紀的地域像を拓く
    • 第1章 ミライの復興地――昭和三陸津波と東日本大震災 岡村健太郎
    •  1 復興地の全体像
    •  2 吉里吉里集落の復興地に刻まれた災害の記憶(事例分析一)
    •  3 港・岩崎集落の復興地に刻まれた災害の記憶(事例分析二
    • 第2章 記憶のアーカイブ――スマトラ島沖津波の経験を世界へ 西 芳実
    •  1 紛争と被災
    •  2 証言集――地域の繋がりを取り戻す
    •  3 自分史――時間の繋がりを取り戻す
    •  4 今昔写真――移り変わりを可視化する
    • 第3章 家系図の創造――ボルネオの黄龍の子孫たち 山本博之
    •  1 黄龍の家系図
    •  2 ボルネオの中国人と先住民
    •  3 忘れたふりをする私たち
  • 第2部 二十世紀的記憶を結ぶ
    • 第4章 往古への首都建設――平壌の朝鮮式建物 谷川竜一
    •  1 朝鮮式建物を読み解く
    •  2 往古への首都建設
    • 第5章 戦争の記憶と和解――韓国軍によるベトナム人戦時虐殺問題 伊藤正子
    •  1 記憶の語り方――韓国の場合
    •  2 記憶の語り方――ベトナムの場合
    •  3 報道十年後の軋轢
    • 第6章 交錯する農村の近代――岩手県沢内村と黒龍江省方正県 坂部晶子
    •  1 沢内村の近代と中国
    •  2 方正県の近代と日本
    •  3 二つの村の近代をつなぐ
  • 第3部 二十世紀的記憶を描く
    • 第7章 黒船来航と集合的忘却――久里浜・下田・那覇 泉水英計
    •  1 久里浜――国際政治のなかの日米関係
    •  2 下田――観光資源としての開国史
    •  3 那覇――日米の狭間で
    • 第8章 日本人の性的表象――南洋を描いた中国語小説 及川 茜
    •  1 張貴興が伝える日本イメージ
    •  2 陳千武が描くティモール島の戦争体験
    •  3 李永平が描く日本人
    • 第9章 グラフ誌が描かなかった死――日中戦争下の華北 貴志俊彦
    •  1 満鉄の華北進出とグラフ誌の刊行
    •  2 華北交通発行のグラフ誌とその特徴
  • エピローグ 相関地域研究についてひとこと――比較と関係性 貴志俊彦/山本博之/西 芳実/谷川竜一

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