想像力の深海に潜る – CSEAS Newsletter

想像力の深海に潜る

Newsletter No.81 2023-11-08

R. マイケル・フィーナー
(歴史学、イスラーム研究)

私はニューイングランドの古い港町に生まれ、これまでの人生のほとんどを海の近くで過ごしてきました。故郷の港、マサチューセッツ州セイラムは、18世紀から19世紀にかけて、大西洋をわたりインド洋の複雑な商業と文化の流通に参入した木造船の甲板や船体が伝えるように、遠く離れたアラビア半島、スマトラ島、中国大陸とのつながりの歴史をもっています。この時代の航海によって、セイラムは、独自の地域色を帯びながらも、海をまたいで世界各地に散らばる多くの寄港地との近しさをもあわせもつ文化を作り出しました。

早くからそのような海運の時代の歴史に魅せられ、その後数十年にわたって研究を続けてきました。数年前にここ京都に移住した時には、私もついにフィールドワークでモルディブやインドネシアの島々へ出航する期間を除けば陸上生活者になるのかと思ったものです。しかし今日にいたるまで、そうはなっていません。CSEASの私の研究室は鴨川に面しており、仕事の行き帰りに川沿いを歩いていると、このはるか上流にいても、時間を遡ることでさらに世界の海域とのつながりを感じることができると実感するようになりました。

このような歴史への想像力が生み出した大著に、フィリップ・ボージャール『インド洋の世界』(原題Les Mondes de l’océan indien、2012年。英訳はThe Worlds of the Indian Ocean: A Global History、2019年。邦訳は未刊行)があります。2巻の大冊の中で3000年以上をカバーするボージャールの著作は、インド洋とのダイナミックな関わりを通じて結ばれた複数の地域が織りなす世界史という長期的な視点を提示しています。時代ごとに重要な地理的範囲としてエジプト、近東、ペルシャ、インド、東南アジア、中国、アラブ、東アフリカ、マダガスカルなどの項目が設けられ、それらをインド洋における「世界群」として統合的に紹介しています。

ボージャールの作品は私にとって、歴史記述による世界構築の途方もなく豊かな見本であり、選び抜かれ、巧みに編成された該博な解説を通じて、時空を超えた分厚いつながりの感覚を生み出しています。例えば、12世紀から13世紀にかけて建造されたジャンク船の大型化や数の増加を示しつつ、著者はそれらの船が中国で製造されながらも、モルディブをはじめとするインド洋の島々のコイル紐、東南アジアの広葉樹の硬材で作られた舵、日本の板材など、他の地域で調達された材料を使って組み立てられていた事実を強調しています。一次資料を探し求め、足を水に浸して調査に通う歴史家として、複雑につながる海の時代に思いを馳せながらその研究に取り組むうえで、オフィスの窓辺を過ぎゆく浅く澄んだ流れによっても想像の深い海へ潜ることができると知ることは、ある種の安らぎをもたらしてくれるものです。

(イラスト:Atelier Epocha(アトリエ エポカ))

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“Downstream to Deeper Oceans of Imagination” by R. Michael Feener