国際ワークショップ「Political Development in Southeast Asia: Implications to Indo-Pacific Democracy」 – CSEAS Newsletter

国際ワークショップ「Political Development in Southeast Asia: Implications to Indo-Pacific Democracy」

Newsletter No.81 2023-08-09

岡本 正明

2023年7月6日と7日、本研究所において、台湾政治大学東南アジア研究所と共催で国際ワークショップ「Political Development in Southeast Asia: Implications to Indo-Pacific Democracy(東南アジアにおける政治発展:インド太平洋の民主化にとっての意味)」を開催しました。初日は、日本、台湾、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、インド、アメリカから発表者、司会、討論者の合計14名が参加しました。本研究所の三重野文晴所長による挨拶のあと、台湾政治大学東南アジア研究所のアラン・ヤン所長が基調講演を行いました。その後、3つのセッションが行われました。第1セッションで、フィリピン、マレーシア、インドネシアの国内政治のダイナミズムについて、第2セッションで総選挙を終えたばかりのタイ政治について、第3セッションでインド、台湾、ミャンマーなどの国内政治と国際政治を絡めた民主化について発表が行われました。それぞれのセッションでの発表の後に討論者による多角的なコメントがあり、活発な議論が展開されました。

三重野文晴所長による挨拶
アラン・ヤン所長による基調講演

各国の政治発展に関する発表からは、必ずしも民主化が進展、深化しているとは言い切れない点が強調されました。80年代中葉から民主化しているフィリピンでは民主化の後退(backsliding)の議論が続いており、2018年に独立後初めて政権交代が起きたマレーシアでは政治エリートたちの合従連衡だけが起きており、民主主義の質について疑問が残っています。インドネシアでも文民政権のもとで軍が利権拡大に成功しており、地方レベルに目を向ければ、正副首長候補が一組しか出馬しない首長選挙が増えつつあります。また、今年5月に選挙を終えたタイでは、王室改革や徴兵制度の見直しを求める野党が大方の予想を覆して第1党になったものの、政権を担えるのか不透明なままです。地方レベルでは内務省の統制が民主主義の大きな障害になり続けています。そして、ミャンマーでは2021年にクーデタが起きて軍政に逆戻りしてしまっています。

国際関係を見てみれば、インド太平洋地域では先進国が民主主義的規範を重視しているのに対し、新興国はそれほどでもありません。このギャップがインド太平洋地域での戦略的協力関係の構築を困難にしています。加えて、インドは独立してから民主主義体制をほぼ維持し続けているにもかかわらず、アジアにおける民主主義の推進に全く関心を示していないことが、こうした協力関係の推進を難しくしている可能性もあります。

こうした民主主義の定着の難しさを示す論点が数多く示される一方で、討論などを通じて、アジアにおける民主主義の展開を欧米の観点から分析しがちであることの問題点、インドネシアの地方レベルでの反オリガーキーを可能とする制度、タイの地方における野党による政治行政改革の可能性など、ポジティブな政治発展の可能性も指摘されました。二日目は、円卓形式でこうしたインド太平洋地域における民主主義の後退現象、それに対抗する動きを論じ、次年度に出版予定の英文編著本の中心的テーマとなりそうな論点の洗い出しを行いました。

本ワークショップのプログラムについては以下のリンク先をご覧ください。
https://kyoto.cseas.kyoto-u.ac.jp/event/20230706-07/

(2023年7月21日)

本記事は英語でもお読みいただけます。»
Political Development in Southeast Asia: Implications to Indo-Pacific Democracy”:
An international workshop in collaboration with the National Chengchi University of Taiwan
by Masaaki Okamoto