情報とフィールド科学(ブックレット・シリーズ) | 京都大学 東南アジア地域研究研究所

現代世界はたくさんの情報で溢れています。技術やツールの発達によって、これまで利用できなかった情報が利用できるようになり、多くの情報を短い時間に少ないコストでやり取りできるようになりました。また、情報の発信も容易になり、個人でも様々な形の情報を容易に発信できるようになりました。

このように、利用できる情報の種類や量が増えたことで、これまで私たちが知ることができなかった事柄も知ることができるようになりました。学問の世界、中でも生きた人間社会の歴史や現実を幅広く扱うフィールド科学と呼ばれる分野においては、これまでは誰かによって書かれたもの(文献資料)や統計資料、人々の生活の痕跡(例えば発掘出土品)や都市計画・建築、若干の画像・絵画資料に依存せざるを得なかった資料の範囲が急速に広がりました。しかし、それによって私たちを取り巻く様々な事柄がよりわかるようになったとは限りません。情報の種類や量が増えても、それを読み解くツールや方法論が十分に確立していないためです。現実世界には、数字や文字テキストのほかに、音声、図画、動画、形、景観などの様々な種類の情報があり、それらをどのように扱えばよいのかはまだ十分に確立していません。

このブックレット・シリーズが、そうした混沌と溢れる情報の中からフィールド科学にとって有用な情報を引き出す方法について考える手引きとなれば幸いです。

地域を比較し、その関係性を明らかにするという営為は、じつに多くの興味や好奇心、ときには意図しなかった驚きや発見をもたらしてくれます。ひとりでも多くの方が、本シリーズによってこうした営為の仲間入りをしてくださることを願ってやみません。

第6巻 柳澤雅之著『景観から風土と文化を読み解く』(京都大学学術出版会、2019年3月)

農の営みが創り出す景観には、気候や土壌といった自然条件に合わせた技術だけではない、社会関係や経済制度といった地域の文化要素が埋め込まれている。耕作方法、植物・作物の分布状態、土地の傾斜や水の流れ方など、風景の細部をどう観察するのか。景観から得られる情報と、現地での聞き取りや歴史文献からの情報をどう組み合わせるのか。臨地調査における基礎的な視点と方法を、著者自身の経験と、日本の地域研究を代表するフィールドノートから具体的に学ぶ。

  • 目次
  • 本書のねらい
  • 第1章 景観観察の基本的な考え方
    見たものを記録する/景観を言語化する二つのプロセス/景観から情報を見出すプロセス/事前の関心事とフィールドワーク/自分のフィルター/自分自身の関心事とは/表現するためのプロセス/特定の事物の観察から関連する事物の観察へ/特定の事物との連関を見る/連関を総合的に見る/ばらばらな事物をつなぐ/部分と全体/全体を理解するとは/分析主体の近代科学/世界はひとつのシステムでできているのか/誰が壮大な研究を行うのか/景観の全体を読み解く
  • 第2章 自然の精緻な利用を読み解く
    ズームインとズームアウト/ベトナム農村での苗取りの景観の読み解き/ベトナムの水田景観の読み解き/読み解きはひとつではない/ベトナム農村の景観観察/ベトナム農村景観の読み解き①屋敷地と樹木/ベトナム農村景観の読み解き②畑地と野菜/ベトナム農村景観の読み解き③低地と水田/景観観察での読み解きの直接的な効用/景観観察での読み解きの利用/村の景観観察から地域の理解へ/海岸沿いの農村景観/景観に共通点を見出す/モデルと地域区分図/地域区分図の作成と現地調査/ベトナム紅河デルタ地域区分図の作成/東南アジアの農業と地形/人と自然の関わりを読み解く/自然の精緻な利用を読み解く意義
  • 第3章 社会の制度と文化の歴史を読み解く
    インドネシア・スラウェシの農村景観から/さまざまな資料から景観を読み解く/フィールドノートの利用/高谷好一フィールドノート/インドネシア・スラウェシの土地利用の変化を読む/一九八〇年の農村景観/現地での農村景観の観察と聞き取り/農村景観の読み解き/人間活動の読み解き/東南アジアの歴史と農村景観/変化する農村景観/地域の農耕文化からグローバルな営農システムへ
  • おわりに──景観観察から日本と世界を考えてみる

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第5巻 林行夫著『生きている文化を人に学ぶ』(京都大学学術出版会、2017年3月)

社会の本当の姿は、文献や統計では分からない。特に、「宗教」や「政治」といった、自分の社会、自分の身の回りにも「同じ」コトバがあるような事柄ほど、自分の常識から「理解」してしまいがちで、自分と異なる人々にとっての意味を掴むことができない。「宗教」や「政治」、単なる規制や制度ではない、人による実践だからだ。人々とともに食べ、ともに汗を流す中で、初めて掴める事柄があるのだ。
タイをはじめとする上座部仏教社会で長く調査してきたフィールドワーカーが、ことばの習得、信頼関係の築き方、聞き取りの方法、そして何より、多様な生が重層する世界で生きる生き方を語る、情報とは畢竟人であることを教える、現代フィールド科学の体験的入門書。

  • 現代世界の日常生活
  • 本書のねらい
  • 1 宇宙と同じく未知な〈日常〉
    居場所をもとめて
    重要な他者、知識の集積体としての人
    魚は水を知らない、鳥は空を知らない
  • 2 ことばを習得する技と作法
    人から学ぶということ
    暮らしのなかでことばを学ぶ
    できあいの情報から離れてみる
    公式の言説はどう読まれているか、に着目する
  • 3 野生の哲学——You are what you eat の洞察
    みられること——失敗こそフィールドワーク
    定着調査で「たべる」——Scrap & Build
    日本人はアジノモトでできている?
  • 4 身体としての、実践としての知
    似て非なるもの——東南アジアの仏教
    身体を介して継承・実践される戒——知識と行い
    行いと知識——実践宗教の核
  • 5 「学知」は発展するが、現実は忘れられる——近代化が曇らせた眼
    不純にして健全な見立て?
    上座仏教をめぐる西欧と日本のレフレクション
    仏教研究と仏教徒研究
    ——文化と社会、歴史、フィールド科学
  • 6 身体を失った知を取り戻す想像力を育む
    自文化と異国趣味からみえる共存への展望
    異文化の扱い方
    想像力——異文化は日常生活のなかに
    教養知を活かす
    生きている世界の足下をみる

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第4巻 西芳実著『被災地に寄り添う社会調査』(京都大学学術出版会、2016年3月)

「この事態に学問は何の役に立つのか?」相次ぐ災害を前に,多くの研究者が強く自問した。しかし,被災社会をを深く理解すれば,復興の過程では全ての学問に意義があることが分かる。現場を訪れ,長期間にわたって社会と寄り添い,被災者を理解するための技法―報道情報の分析,景観やモノへの着目,そして対話の方法―を実践的に学ぶ。

  • 災害に対して何ができるか ? 現場に入る前の技法を知る
  • 第1章 新聞と統計を読む──時間と空間で捉える
    新聞情報を集める
    オンタイムの情報を捉える(1)──新聞記事
    オンタイムの情報を捉える(2)──統計
    直接の現場から離れて得られる「行動知」
  • 第2章 津波遺構を観察する──人びとがどう使っているかをみる
    被災地を訪れてみる
    津波遺構に託されたメッセージを探る
    自分なりの関心を向ける
  • 第3章 関係者の話を聞く──使えるツールを探
    物語を集める──タイプライター・プロジェクト
    写真を撮る──メモリー・ハンティング
    使えるツールを探す
  • 第4章 思い入れを読み解く──違和感のもとを調べる
    被災地の歴史と社会を知る
    被災地の土産物屋
    思い入れを読み解く
  • 結び
  • 専門性を磨く──文化・社会を支える「行動知」を

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第3巻 山本博之『雑誌から見る社会』(京都大学学術出版会、2016年3月)

時々の社会を映し出すマスメディア。中でも雑誌は特別の資料的意味を持つ。一号あたりの限られた誌面と定期性,なにより,新聞その他と決定的に違うのは,読者対象が明確に定められていることだ。それぞれの分野の「専門家」向けの,いわばローカルで特殊な記事の中に,その時代に普遍的な重大な関心事が織り込まれる。日本ではほとんど知られない「イスラーム専門誌」を題材に,大小の記事から,時代と社会を理解する情報を引き出すテクニックについて考える。

  • イスラム教とマスメディア
  • 多民族・多宗教の中でのイスラム教——東南アジア
  • 活字離れ?
  • 新聞・論文と雑誌
  • マレー語雑誌と「カラム」
  • イスラム雑誌の表紙を読む——メッセージが掴めますか?
  • 雑誌「カラム」創刊以前のマレー社会
  • 創刊の言葉と雑誌名
  • 編集者——エドルスと「カラム」
  • 文字——ローマ字かジャウィか
  • 連載記事——読者との対話
  • 共産主義の脅威——家族の価値が損なわれる
  • スプートニクの時代——西洋の科学技術に取り残されないように
  • ムスリム同胞団——「カラム」読者の地理的広がり
  • 女性と教育
  • 広告と社会
  • イスラム雑誌の諷刺画
  • フィールド科学にとっての雑誌情報

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第2巻 谷川竜一『灯台から考える海の近代』(京都大学学術出版会、2016年3月)

数ある建築物の中でも,人間の「海に向かった認識」を支えるのが灯台だ。それは単に海上の安全を支えるだけではない。それぞれ海域の特性を,経緯度で刻まれた連続したシステムとして世界大の空間と繋いでいる。そこには,海に生きた人々の,ローカルな思いとグローバルな志とが,ともに照らし出されている。日本とアジアの近代化を灯台の歴史からひもとき,政治,外交,軍事から宗教まで,時代のうねりが刻まれた建築物をフィールドワークの資料とする方法を学ぶ。

  • 建築の歴史から何が見えるか
  • 灯台から考える海の近代
    第1章 白洲灯台と近代日本
    灯台と灯明台
    明治初期の日本の灯台
    灯台の見方
    白洲灯台の物語
    助左衛門の灯明台、ブラントンの灯台
    灯明台の計画に現れた世界観
    白洲灯台へ
    場所が紡ぎ、育むもの
  • 第2章 国際航路の建設
    ブラントンの地図
    香港から横浜へ
    上海・横浜国際航路の中の白洲灯台
    横浜・サンフランシスコを結ぶ航路
    海の近代化を導いた国際公共財としての灯台
  • 第3章 帝国主義と戦争
    アジア・太平洋地域の灯台
    西洋式灯台の点灯が始まった場所
    東アジアへの列強の進出
    近代国家日本の輪郭としての灯台
    日露戦争と灯台
    北進に向けた鴨緑江河口・大和島灯台の建設
    求められた臨機応変な建設
    朝鮮半島の植民地経営に向けて
    アジア・太平洋の灯台の点灯と近代日本
  • 終章 アジアの海の近代化

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第1巻 山本博之『映画から世界を読む』(京都大学学術出版会、2015年3月)

どの時代にあっても,映画は,時代の先端あるいは奥底にある社会の様相を反映 する。しかも,どれだけ虚構を描 こうとも,現実世界の何かが映り込んでしま う。映画を分析すれば,時代や地域に関する何某かの情報を引き出すことができ るのだ。『マンガ 肉と僕』等,二本のアジア映画を素材に映画を深読みして研 究に活かす実践力を伝授する。

  • 情報から情報を引き出す方法論
  • 「動画」は見るけど「映画」は見ない?
  • 映画が「分かりにく」くなったわけ
  • 「情報災害」の時代
  • 欧米的な権威と様々な家族の形──アジア映画に映し出されるもの
  • アジア映画の中の家族
  • 現実世界を見るための映画
  • 映画とドキュメンタリー
  • ノイズを読む
  • 映画の読み解き(1)  時間で4つに区切る
  • 映画の読み解き(2)  場所の動きを捉える
  • 映画の読み解き(3)  時間の流れを調べる
  • 映画の読み解き(4)  登場人物の関係を見る
  • 映画の読み解き(5)  違和感を探す
  • 映画『マンガ肉と僕』を読み解く
  • 引用され参照される事柄への着目──原作への足し算と引き算
  • 狭間の価値──橋やほとりの意味
  • Column 映画の中の地域研究者
  • 制作者自身を知る
  • 切り取り(フレーム),紐づけ(スクリーン),読み替え(オーディエンス)
  • 現実世界が読めるようになるには

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