強権政治の崩壊後、「経済発展における政治依存」という構図はどう変容したのか。インドネシアの一ファミリー・ビジネスの勃興を、ビジネス・グループの「経済権力」すなわち所有と経営の支配をめぐるポリティクスという視点インドネシアの多くの大企業は、その創業者ファミリーが形成したビジネス・グループに属し、政治権力との彼らの個人的なつながりによって大きな利益を確保し、同国経済をけん引してきた。しかし、98年のアジア経済危機、その後の民主化・改革、さらには2008年の世界金融危機により、こうしたファミリー・ビジネスは解体のリスクにさらされるようになる。果たして、ビジネス・ファミリーはどのように生き残りを図り、その「経済権力」を維持してきたのか。新興国インドネシアのビジネスと政治のあいだにあるダイナミクスの論理を探る。
目次
プロローグ
序章 バクリ・ビジネス論の意義
1 問いと仮説
2 本書の視角と議論の手順
第I部 議論の設定 ビジネス・ファミリーと政治経済
第1章 「経済権力」のダイナミクス—理論的枠組みの検討
1 インドネシア政治経済理論
2 インドネシアの企業研究
3 「経済権力」概念の再考
第2章 インドネシアにおけるファミリー・ビジネス
1 ファミリー・ビジネスの類型
2 大規模華人系ビジネス・グループ
3 単一の非華人系ファミリーの支配下にあるビジネス・グループ
4 旧アストラ系ネットワークを基盤とするグループ
5 ファミリー・ビジネス類型の再検討
COLUMN マスピオン・グループ
第II部 バクリ・ファミリーのビジネス
第3章 バクリ・グループの政治経済史①
—ベンテン政策の成功例
1 創業期の政治経済環境—民間プリブミ企業育成の失敗
2 創業
3 スハルト権威主義体制下のプリブミ保護政策とバクリ・グループ
—1960年代後半~1980年代前半
第4章 バクリ・グループの政治経済史②
—「プリブミのスター」の政治コネクション
1 自由化政策と政治経済の変容—1980年代後半~1990年代初め
2 バクリ・ファミリー第二世代の経営改革
3 アブリザルの政治的台頭
第5章 ファミリーによる経済権力の維持①
—金融取引とビジネス・ネットワーク
1 1998年アジア経済危機への政府対応
2 バクリ・グループの債務危機の克服とファミリー支配の維持・回復
第6章 プロフェッショナル経営陣による刷新
—資金調達の国際化と石炭事業の重点化
1 資金調達の短期化・国際化
2 インフラと石炭の重点化
3 「タックス・ヘイブン」の活用による税回避と当局との法的紛争
第7章 ファミリーによる経済権力の維持②
—2008年債務危機での「財務のための財務」とガバナンス
1 2008年世界金融危機の影響による第二次債務危機
2 政治介入による株式保護と債務処理
3 国際資本を介した債務再編
4 2008年債務危機以降の収益悪化と資金調達
5 バクリ・ファミリーによるグループの実質支配の態様
6 資本市場における金融当局との闘争—2009年~2012年
7 「財務のための財務」
第III部 バクリ・ファミリーの政治
第8章 ビジネス界での政治的影響力の拡大
—KADINネットワークとビジネス支援
1 ポスト・スハルト期におけるアブリザル体制のKADIN
2 ポスト・アブリザルのKADIN—ビジネス界への影響力
3 KADINの人事—アブリザルの政治的影響力の源泉
4 支援者・投資パートナーとしての経済的影響力
—内部資本市場の拡大
第9章 政界での政治的影響力の拡大と行使
—「政党の企業化」と政策・市場への影響力行使
1 2004年選挙におけるゴルカル党での政治的影響力の拡大
2 入閣とアブリザルの政治権力
3 2009年の選挙とゴルカル党の「企業化」
4 アブリザルによる影響力行使
—石炭部門での権力闘争と資本市場への介入
5 2014年選挙での支持基盤とその崩壊
—地方実業家の分裂と中央執行部からの反発
終章 新興国におけるビジネス・ファミリーの高リスクな合理化
1 仮説の検証—「財務のための財務」による高リスクな危機の克服
2 創業者ファミリーによる経済権力の維持と政治経済の動態
3 展望
—新興国における経済権力のリスクとインパクトに関する研究へ
参考文献
謝辞
索引(事項/人名)
関連情報
ブックトーク・オン・アジアNo.13 小西 鉄『新興国のビジネスと政治―インドネシア バクリ・ファミリーの経済権力』(京都大学学術出版会、2021年)
https://soundcloud.com/user-153026370-46049678/konishi
https://www.youtube.com/watch?v=dnb2_rTN9gc