県知事の政治的地位と政策決定への影響力を中心にラオスの中央集権と地方分権の政治動態を分析することで、県知事制の下でラオス人民革命党が地方を支配する仕組みを描き出す。特に、党中央が知事を通じて地方の治安を統制しつつ、地方党委員会を通じて経済開発に地方の状況を反映させるメカニズムが形成されていることを明らかにする。
目次
はしがき
序章
1.本書の研究目的とラオスの地方行政の抱えてきた課題
2.ラオスの地方行政と中央地方関係の特徴
3.ラオスの地方行政の変化に関する時期区分
4.先行研究
5.ヴィエンチャン県の特徴と調査方法
6.本書の構成
第1章 県知事の政治的地位と県党委員会との関係──ヴィエンチャン県を事例に
第1節 県知事の政治的地位
1.ラオスの地方行政の構成
2.法律に定める地方行政機関の任免権
3.党規約にみる地方党組織の構成と県党書記の地位
4.県知事の党中央委員会における地位
第2節 県知事を通じた党中央の地方統制
1.県知事の任命過程
2.全国の県知事の人事異動
第3節 県知事と県党委員会の構成と職掌分担
1.ヴィエンチャン県の行政機関の概要
2.県党執行委員会の構成
3.県党指導部内での職掌分担
第4節 県党書記と他の県党委員の関係
1.県党執行委員の人事異動
2.ヴィエンチャン県知事、県党副書記、県副知事の人物像
第2章 党の政策変更と地方行政の形成過程
第1節 新体制発足後の地方行政の特徴
1.1975年以前のラオスの地方行政制度
2.1975年以降の地方行政の形成──ヴェトナムモデルの導入
第 2節 地方行政の形成と体制の強化──1976年~1981年
1.旧ラオス王国政府職員の再教育と採用
2.地方人民議会を通じた民族間の融和の強調
3.地方党委員会と地方人民行政委員会の活動
4.中越戦争の影響と少数民族の抵抗に対する体制の強化
第3節 経済建設と改革路線の中での地方行政の変化──1982年~1989年
1.国内団結から経済建設への転換
2.1980年代前半における党組織の問題
3.議会強化の方針と兼任体制の決定
4.国家行政機関の簡素化──党組織と行政機関の補助機関の統合
第4節 1991年以前の中央地方関係の変化
1.治安対策のための地方分権化──1978年~1983年
2.経済建設と改革路線による地方分権化──1984年~1988年
3.財政の中央集権化の開始──1989年以降
第5節 第5回党大会における政治制度改革──1991年憲法による行政首長制の導入
1.ソ連と東欧諸国からの教訓──党の指導的役割の強化
2.党中央委員会における地方行政改革に関する議論
3.1991年の時点での党組織の問題──党員のレベルと県党大会
4.1991年憲法の制定による県知事制と郡長制の導入
5.県党書記と県知事の兼任体制の採用
第6節 1991年地方行政改革による部門別管理制度の導入
1.財務管理の中央集権化
2.憲法制定後の中央地方関係に関する議論
3.党政治局第 21号決議に定める中央各省、地方の党、地方行政首長の職掌分担
第7節 開発と治安維持のバランス──1996年以降の地方分権化政策
1.第6回党大会と ASEANへの加盟
2.開発における地方の主体性の強化──1998年の党決議
3.2003年の憲法改正における県知事制の維持
4.村の統合と管理の強化──2004年以降
第3章 県知事制形成の背景──ヴィエンチャン県党委員会の変遷
第1節 ヴィエンチャン県党委員会の形成過程と権力掌握
1.ヴィエンチャン県党委員会の設立──1950年代
2.ラオス王国政府との戦闘の激化と敵の撹乱──1960年代
3.権力の掌握と新しい行政の形成──1970年代前半
第2節 新体制下での行政の確立と治安の維持
1.党中央からの指導部の異動と人民行政委員会の統一戦線的性格──1976年
2.党委員会による基層建設・農林指導の強化──1977年~1980年
3.新しい党委員のリクルート──1980年~1981年
4.ヴィエンチャン県の分離による治安維持の強化 ―1981年~1983年
第3節 県の経済政策と党内の混乱──経済建設と改革路線の影響
1.県党書記と行政委員長の分離の試行──1983年~1986年
2.党中央委員の県人民行政委員長への赴任と新しい経済政策──1986年~1989年
3.憲法制定の準備と県人民議会選挙──1988年
4.治安と財政政策をめぐる県党委員会の混乱──1989年~1991年
第4節 県知事制下でのヴィエンチャン県党指導部の変遷
1.反政府勢力に対抗した治安強化──1991年~1993年
2.第 1回県党大会の開催と行政の安定──1993年~1998年
3.第 2回県党大会の開催と基層建設の強化──1998年~2001年
4.県内の治安の重視──2001年~2005年
5.サイソムブーン特別区の統合と県第3回党大会の開催──2005年
第4章 県知事と県党委員会の財務への影響力──ヴィエンチャン県の予算管理制度
第1節 1991年以降の財務・予算管理政策の変化
1.1991年以降の予算管理の中央集権化
2.1994年国家予算法にみる県知事への支出命令権の委譲
3.1999年の財政・予算管理に関する地方分権化政策
4.首相訓令第 01号による歳入確保のための地方の統制強化
5.予算制度の中で県知事に裁量権が与えられている費目
第2節 ラオスにおける予算の構成と予算管理の問題点
1.全国の予算の構成
2.地方部局の予算管理に関する地方分権化政策の背景
3.2000年以降の地方の歳入確保の強化と実施上の困難
4.地方での関税徴収の管理と制度上の問題
5.地方から中央への税収の移転と地方の債務の問題
第3節 国家予算編成の過程にみる中央と地方の調整過程
1.国家予算編成過程にみる財務省と県の間の調整関係
2.国会での予算案審議後における県の予算案の編成
3.国家歳入予算の編成にみる中央と県の関係
第4節 県知事の予算管理への影響力
1.地方の歳入管理の状況と問題点
2.地方の歳出管理の状況と問題点
3.地方予算案の編成と執行過程──県知事と県党委員会の役割
第5節 県知事裁量予算の実施
1.県調整費と地方予備費の実施状況
2.計画超過報奨金制度の実施
第5章 県知事と県党委員会による地方人事の統制──ヴィエンチャン県の事例
第1節 職員管理体制にみる県知事と県党委員会の裁量権
1.1991年以降の人事管理の中央集権化と県知事,地方党委員会の権限
2.党による人事管理全体の中での地方統制のメカニズム
3.人事管理制度の運用にみる県知事と県党委員会の影響力
第2節 郡長人事に対する県知事と県党委員会の影響力
1.県知事と県党委員会の地方での人事管理に関する権限
2.郡長・副郡長の任命過程にみる県知事と県党委員会の影響力
3.郡長と副郡長の配置状況
第3節 県知事と県党委員会の人事権限──県官房と郡官房の人事管理
1.県官房と郡官房職員の任命過程
2.県官房と郡官房職員の配置状況
第4節 省庁の地方出先機関に対する県知事と県党委員会の影響力
1.中央省庁による地方出先機関の職員管理の権限
2.財務省地方出先機関の職員の任命過程
3.全国の県財務局長・次長の配置状況
4.ヴィエンチャン県財務局職員の配置状況
第6章 プロジェクト形成における県知事と県党委員会の職掌分担──ヴィエンチャン県の計画・事業管理
第1節 公共事業の構成と計画制度の変化
1.公共事業計画にみる中央と地方の事業予算の構成
2.ラオスの計画制度と中央での担当機関の変遷
第2節 地方分権化政策と事業形成における県知事の権限
1.1998年以降の党の地方分権化政策の意図
2.2000年以降の計画事業管理に関する地方分権化政策
3.県知事による計画策定・事業形成に関する権限
第3節 中央での公共事業投資計画策定過程にみる中央地方関係
1.法令に定める公共事業投資計画の策定過程
2.公共事業投資計画策定にみる県の計画策定に対する中央の統制
第4節 計画策定過程にみる県知事の権限と県党委員の職掌分担
1.ヴィエンチャン県における公共事業の構成
2.県内の計画策定に関する中央省庁、県知事、県党委員会の職掌分担
3.県の公共事業投資計画策定過程にみる県知事と県党委員会の影響力
4.県知事の指導による事業形成
第5節 公共事業形成における県の役割──ヴィエンチャン県工業局の事業管理
1.送電線事業の管理体制
2.県工業局における公共事業投資計画の策定過程
3.中央が管理する送電線プロジェクトの特徴
4.県が管理する送電線プロジェクトの特徴
第6節 ヴィエンチャン県工業局の事業形成過程──県知事と県副知事の職掌分担
1.ヴァンヴィエン郡ーメート郡送電線建設プロジェクトの形成目的
2.ヴァンヴィエン郡―メート郡送電線建設プロジェクトの事業形成過程
終章
1.県知事を軸とした集権と分権の動態
2.ラオスの地方行政、中央集権・地方分権をめぐる今後の展望
付録1
付録2
付録3
参考文献
あとがき
索引