Crouch, Melissa | 京都大学 東南アジア地域研究研究所

VISITOR’S VOICE

Visitor’s Voiceは東南アジア地域研究研究所に滞在しているフェローを紹介するインタビューシリーズです。彼らの研究活動にスポットを当てながら、研究の背景にある人々やさまざまなエピソードを含めて、一問一答形式で紹介しています。

これまでのインタビュー記事一覧

Interview


グローバルサウスにおける立憲主義


01

ご研究について教えてください。

立憲主義を求める闘いと、アジアにおける憲法、裁判所、宗教をめぐる法と政治に関する問題を研究しています。私の研究は特にインドネシアとミャンマーに焦点を当て、比較憲法、法と社会、法と宗教の分野に貢献するものです。

博士論文に始まる初期の研究では、1998年以降のインドネシアにおける宗教の司法化がテーマでした。インドネシアに関する研究はその後範囲を広げ、司法改革の政治学と特別法廷の拡大立憲民主主義の現状を取り上げました。また、アジア太平洋地域の女性判事に関する共同研究も行いました。International Journal of Constitutional Law誌の書評シンポジウムで取り上げて頂いたことについては林建志氏に感謝しています。これは思いもよらないことでした。

ミャンマーについても、軍がいかに憲法作成を利用して立憲民主主義を阻止したのか裁判所がいかに軍事化していったのかなど、法と憲法の役割を検討してきました。これは近年、私が権威主義体制下の憲法に大きな関心を寄せてきたことを反映したものです。この研究を始めたころは周縁化されたテーマだと思われていました。しかし今やポピュリズムが台頭し、民主主義が後退し、また反自由主義が根強く残るなか、権威主義はグローバルサウス、特に東南アジアの立憲主義研究の最大の関心事になっています。 京都で招へい研究員として滞在中は、執筆中の本を書き上げる予定です。そのほかには、軍事政権がどのようにして、また何故憲法と法を利用するのかについて、Annual Review of Law & Social Science誌に載せる論文も仕上げるつもりです。


02

研究で出会った印象的なひと、もの、場所について、エピソードを教えてください。

現在執筆中の本に影響を与えた重要な人物はコーニー氏(U Ko Ni)です。法律家でしたが、痛ましいことに2017年にミャンマーで暗殺されました。私は彼からミャンマー憲法の性質と、立憲政治から軍を排除する難しさについて学びました。彼の人生と貢献については別稿に詳しく書きました。


03

調査や執筆のおとも、マストギア、なくてはならないものについて教えてください。

京都では自転車が必需品かと思います。美しい街でのサイクリングを楽しんでいます。


04

若い人におすすめの本があれば教えてください。

研究者によって役に立つリソースは違いますので、自分が最も関心のある本や自分の研究に関係する本を読むとよいでしょう。 研究者の論文執筆の指南書で、若手研究者に役立つと思われるものには2種類あります。一つは書く技術に関する本です。たとえば、スティーブン・ピンカー(Steven Pinker)のThe Sense of Styleは、文やパラグラフの構造を考えるのに役立ちます。もう一つは、執筆の物理的・心理的な妨げとなるものをいかに克服するかに関する本で、たとえばジョリ・ジェンセン(Joli Jensen)のWrite No Matter Whatは精緻であり、かつ入手しやすい本でしょう。


05

なぜCSEASを選ばれたのでしょうか?

CSEASの招へい研究員に迎えられるのは本当に名誉で光栄なことです。CSEASは独自の視点で東南アジアに真摯に向き合う研究拠点であり、そこで活動する機会は貴重なものです。

CSEASは、東南アジア研究を支え推進するユニークかつ重要な研究機関です。東南アジアに関する知見が深く、真に学際的な研究課題に取り組んでいることで知られています。私はミャンマーとインドネシアについて研究していますが、CSEASには、東南アジアの言語と文化に関する学識で高く評価されている研究者が何人もいます。そうした研究者や招へい研究員と出会えるのが楽しみですし、他の研究者から学び、自分の研究について書き、議論し、フィードバックをもらえる貴重な期間を過ごすことにワクワクしています。

 (2023年8月)

メリッサ・クラウチ(Melissa Crouch)

オーストラリア・シドニーのニューサウスウェールズ大学法学部教授。クラウチ氏の研究は、法と社会、比較憲法、法と宗教の分野に貢献するものである。2022年には、国際社会学会の国際法社会学会から、若手法社会学者の卓越した研究に対して贈られるアダム・ポドゴレツキ賞を受賞。2023年から24年には、オーストラリアにおけるアジア研究の学際的学術団体の最たるものであるAsian Studies Association of Australiaの会長を務める。現在の研究テーマは、権威主義体制における法の役割に注目するものである。東南アジア地域研究研究所招へい研究員として2023年8月〜11月に在籍。


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