西尾 善太 | 京都大学 東南アジア地域研究研究所

西尾 善太

西尾 善太
部門・職位
政治経済共生研究部門
連携研究員
専門
都市社会学 、文化人類学、民俗学、地域研究
研究分野/キーワード
公共性 、労働 、インフラストラクチャー 、マニラ 、都市

西尾 善太

不安定化する社会におけるインフラストラクチャーと公共性

人口の一割が海外での労働に従事するフィリピンでは、出稼ぎ者の収入・仕送りがマニラ首都圏の不動産ブームを引き起こし活発な消費を促している。高い経済成長率の反面、社会を改善しようとする共通関心の喪失、生活と政治の分断から生の不安定化が急速に浸透する。新自由主義時代の生を「生き抜く」足場として機能する親密な紐帯だけでなく、足場を連結させることで生活を政治へと架橋し、生活を「よりよくする」ための公共的ネットワークに光を当てた。多様な人々の絶え間ない交流や交渉を生むインフラである小型路線バス・ジープニーの事例から生活と政治をつなぐ媒介を捉え直し、既存研究の視点からこぼれ落ちてきた土着の公共性の形成過程と形態を描き出し、それが社会運動や新しい連帯の基盤となっていることを解明した。

ギグ・エコノミーと労働者の現在

不安定な社会の流動性は、ギグ・エコノミーと呼ばれる新たな経済形態によって深化している。これはデジタル・プラットフォーム上で需要と供給を結ぶサービスを中心とするものであり、1970年代から単純労働を受注し送り出してきたフィリピンに適合し、世界6位の成長率(2019年)を誇るに至っている。新たな労働形態はフィリピン社会でいかに経験されているのだろうか。配車アプリのドライバーを事例に、彼らがいかに独自のアソシエーションを組織し、生活と政治を再び結び直す試みを行っているのかを調査している。

東南アジア研究の系譜:Anderson x Scott

生活と政治を取り結ぶ公共性を東南アジア社会から考え直す際、東南アジア地域研究の系譜を掘り起こすことが有効と考えられる。1936年生まれの二人の研究者B・アンダーソンとJ・スコットを交差させ、両者のパースペクティブの差異から東南アジア研究の発展の系譜を探る。国民(Nation)を焦点化するアンダーソンと国家(State)を論じるスコット、ふたりのすれ違いが地域研究をいかに方向づけ、また交わらなかった両者を出会わせることで現代社会に関する新たな視座の確立を試みる。