世界中各地で広く見られる屋敷地林、そこは、日常生活に最も近い生産の場である。そして農業システムの中で最も高い多様性と、焼畑に次いで古い歴史をもつ。さらに特筆すべきは、その保持には女性の果たす役割が大きいということである。近代化によって失われつつある屋敷地林と在地の知は、持続的な社会を模索する上での鍵概念なのだ。
日本村落研究学会研究奨励賞22号(2013年度)受賞
目次
口絵
第1部 “人が作った森”から持続社会を考える
第1章 農村、屋敷地と「在地の知」
1 人々の暮らしが育んだ“森”の多様性──研究の視角
2 屋敷地林研究の視角
3 小農という概念をめぐって
4 在地の知への注目
5 バングラデシュの屋敷地と屋敷地林
6 見えない価値を可視化する──本書の課題・目的
7 女性の活動と植物への注目──本書の方法
8 本書の構成
第2章 バングラデシュの社会・経済と調査村の概況
1 変わりゆくバングラデシュの経済と農村社会
2 調査村の水文環境
3 カジシムラ村
4 ドッキンチャムリア村
5 事例村の位置づけ
第2部 屋敷地の利用にみる生活知、在地の知の態様
第3章 屋敷地の構造とその利用:カジシムラ村の事例から
1 屋敷地の構造
2 屋敷地の植物
3 家畜の飼養
4 屋敷地生産物の利用
5 小括
【コラム1 屋敷地林のスケッチから】
第4章 屋敷地をもつということ:ドッキンチャムリア村を事例に
1 D村の屋敷地の構造
2 屋敷地をもつということ
3 小括
第5章 屋敷地林の植物利用からみえる村人の生活知:ドッキンチャムリア村を事例に
1 屋敷地でみられた植物とその利用
2 生活の論理に根差した資源と利用の多様性
3 小括
【コラム2 村の子どもの遊びと屋敷地の植物】
第6章 “女性が育む森”──屋敷地をめぐる資源の利用と管理:ドッキンチャムリア村の事例から
1 屋敷地を軸とした村の女性の世間
2 生産現場としての屋敷地
3 JSRDEのアクションプログラムから
4 小括
【コラム3 村の料理と女性──100%スローフードの世界】
【コラム4 ヘビが映し出す村の暮らし──畏れと憧れと】
第3部 屋敷地林と暮らしの変容
第7章 都市近郊化と屋敷地林の変化:カジシムラ村における屋敷地林の植生と生産物の利用の変化
1 屋敷地の植生の変化
2 新しい屋敷地を造る動き
3 生産物の利用の変化──果物に注目して
4 食の変化と屋敷地の生産物
5 暮らしの変化と女性
6 屋敷地林の伐採と補充
7 小括
【コラム5 家族、家計、屋敷地林:村の女性の語りから】(2006~07年)
第8章 屋敷地林の植生の変化が映し出す村の暮らしの変容:ドッキンチャムリア村の事例から
1 営農体系の変化
2 植生の変化
3 変化の要因──意図した変化と意図せぬ変化
4 小括
第9章 屋敷地の社会経済的役割の変容:ドッキンチャムリア村の事例から
1 屋敷地の「共」的な利用の変化
2 屋敷地林の植物と人々の関わり方の変容
3 屋敷地林からの生産物の利用
4 世帯の社会経済的状況による屋敷地利用の態度の相違
5 小括
【コラム6 村の女の居場所】
第10章 21世紀における屋敷地林の意味を考える
1 屋敷地の成り立ち──水文環境への適応
2 植生の多様性
3 暮らしのニーズに基づいた生産体系
4 屋敷地の変容──変わったものと変わらぬもの
5 屋敷地と女性
6 バングラデシュ農村の“経済”と屋敷地
7 近代技術と屋敷地林
8 バングラデシュの農村開発と屋敷地林
9 おわりに──バングラデシュの屋敷地林が私たちに問いかけること
図表集
Appendix
Appendix 1 調査の方法
Appendix 2 2つの調査村で観察された全植物リスト
引用文献リスト
あとがき
索引