地域研究叢書(和文)

天然資源をめぐる政治と暴力現代インドネシアの地方政治

地域研究叢書29
森下明子 著
2015年3月
250頁、ISBN: 9784876987153

天然資源を誰が管理するのか──権威的支配が崩壊し、社会的亀裂を抑えてきた圧力が解かれた今、インドネシアは、新たな不安定要因を抱えている。しかし、対立が暴力に及ぶ地域もあれば、そうでもない地域もある。インドネシアの中でも最も資源豊かでかつ多民族・多宗教社会であるカリマンタンを舞台に、暴力政治を回避する途を探る。

目次

序章 資源国における天然資源と暴力
第1章  暴力・天然資源・地方政治
 1. 1 「紛争」、「民族」、「暴力」
 1. 2 天然資源と暴力的紛争の結びつき
 1. 3 インドネシア政治研究にみる政治と暴力(1)──スハルト体制
  (1)アチェ州の分離独立運動
  (2)スハルト体制下における政治的安定
 1. 4 インドネシア政治研究にみる政治と暴力(2)──民主化・地方分権化後
  (1)政治的競争パターンの変化──政治的手段としての暴力の使用
  (2)地方権力アクターの連続性
  (3)中央・地方関係の変化──中央政府の影響力の低下
 1. 5 政治と暴力の結びつきに関するもう一つの視点──エスニック・ポリティクス
第2章 カリマンタンの民族紛争
 2. 1 カリマンタンの地理・生態・経済・社会
  (1)カリマンタンの自然的特徴
  (2)カリマンタンの社会・経済的特徴
 2. 2 民族紛争とその背景
  (1)西カリマンタン州の民族紛争
  (2)中カリマンタン州の民族紛争
 2. 3 西・中カリマンタン州の民族紛争の特殊性
第3章 スハルト時代における権力と資源の分配
 3. 1 地方首長ポストの分配
  (1)スハルト時代の地方行政制度
  (2)東カリマンタン州における地方首長の変遷
  (3)中カリマンタン州における地方首長の変遷
  (4)西カリマンタン州における地方首長の変遷
 3. 2 天然資源開発をめぐる利権の分配
  (1) 石油・天然ガス
  (2) 石油・天然ガス以外の鉱物資源
  (3) 森林資源
第4章 民主化・地方分権化後の地方首長の変化
 4. 1 スハルト体制崩壊から民主化・地方分権化へ
  (1)地方政府の新たな行政権限と経済的利権
  (2)民主的地方首長選挙の導入
 4. 2 カリマンタンの地方権力アクターたちとその特徴
  (1)東カリマンタン州の地方首長たち
  (2)中カリマンタン州の地方首長と地方ボス
  (3)西カリマンタン州の地方首長たち
 4. 3 地方分権化後の地方政治構造と地方経済構造の関係
第5章 東カリマンタン州の地方政治・経済構造──中央政治に翻弄される州政治エリートたち
 5. 1 東カリマンタン州の社会的特徴とスハルト時代の政治構造
  (1)民族・宗教的多様性
  (2)地方分権化以前の政治構造
 5. 2 東カリマンタン州の経済構造
 5. 3 2003年州知事選挙
 5. 4 スワルナ州知事による政財界人脈の構築
  (1)スハルト時代のスワルナ
  (2)スワルナ州知事第一期目(1998~2003)
 5. 5 2003年州知事選挙におけるスワルナの協力者たち
 5. 6 ダヤック人政治エリートたちの台頭過程
 5. 7 中央政界の再編と地方権力エリートの盛衰
  (1)スワルナの政治的衰退とシャウカニの台頭
  (2)シャウカニの政治的衰退
  (3)アワン・ファルク・イシャの政治的台頭と2008年州知事選挙
 5. 8 2013年州知事選挙と今後の見通し
第6章 中カリマンタン州の地方政治・経済構造―地元実業家の政治的台頭
 6. 1 中カリマンタン州の社会的特徴とスハルト時代の政治構造
  (1)ダヤック人の多様性
  (2)地方分権化以前の政治構造
 6. 2 中カリマンタン州の経済構造
 6. 3 2000年州知事選挙
 6. 4 ハスヌル・グループ会長スライマン
  (1)小売業者から企業グループ会長へ
  (2)地方政界への進出
  (3)地方首長の擁立
  (4)さらなる政治・経済的利権を求めて──自治体新設運動の推進
 6. 5 タンジュン・リンガ・グループ会長アブドゥル・ラシッド
  (1)コタワリンギン地方の木材マフィア
  (2)ラシッド・ファミリーの政界進出
  (3)地方首長の擁立
  (4)違法木材ビジネスの保護政策
 6. 6 キリスト教徒のダヤック人政治エリート
  (1)ウソップの社会的台頭
  (2)LMMDD-KTの政治的限界
 6.7 直接選挙制導入後の政治的展開
  (1)2005年州知事選挙におけるキリスト教徒のダヤック人州知事の誕生
  (2)テラス・ナランの支持基盤の拡大と2010年州知事選挙
  (3)キリスト教徒のダヤック人政治エリートの政治的限界
第7章 西カリマンタン州の地方政治・経済構造──群雄割拠する中小規模の地方有力者たち
 7. 1 西カリマンタン州の社会的特徴とスハルト時代の政治構造
  (1)ダヤック人の民族的流動性
  (2)地方分権化以前の政治構造
 7. 2 西カリマンタン州の経済構造
  (1)木材産業を担う華人業者たち
  (2)新たな産業の発展とその担い手
  (3)跋扈する労働者ボスたち
 7. 3 2008年州知事選挙
 7. 4 カリスマ的民族指導者の不在
  (1)ダヤック人指導者ウファーン・ウライの死
  (2)ダヤック人組織の設立
  (3)マレー人組織の設立
 7. 5 コーネリスの台頭過程
  (1)スハルト時代のコーネリス
  (2)県議会議事堂焼き討ち事件
  (3)ランダック県知事選挙での当選
  (4)県知事から州知事へ
  (5)経済的影響力の拡大
 7. 6 2012年州知事選挙──県政治エリートたちの権力争い
 7. 7 西カリマンタン州の政治的特徴
  (1)暴力の使用
  (2)県知事の地方ボス化
終章 資源産出地域における政治と暴力

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