天然資源を誰が管理するのか──権威的支配が崩壊し、社会的亀裂を抑えてきた圧力が解かれた今、インドネシアは、新たな不安定要因を抱えている。しかし、対立が暴力に及ぶ地域もあれば、そうでもない地域もある。インドネシアの中でも最も資源豊かでかつ多民族・多宗教社会であるカリマンタンを舞台に、暴力政治を回避する途を探る。
目次
序章 資源国における天然資源と暴力
第1章 暴力・天然資源・地方政治
1. 1 「紛争」、「民族」、「暴力」
1. 2 天然資源と暴力的紛争の結びつき
1. 3 インドネシア政治研究にみる政治と暴力(1)──スハルト体制
(1)アチェ州の分離独立運動
(2)スハルト体制下における政治的安定
1. 4 インドネシア政治研究にみる政治と暴力(2)──民主化・地方分権化後
(1)政治的競争パターンの変化──政治的手段としての暴力の使用
(2)地方権力アクターの連続性
(3)中央・地方関係の変化──中央政府の影響力の低下
1. 5 政治と暴力の結びつきに関するもう一つの視点──エスニック・ポリティクス
第2章 カリマンタンの民族紛争
2. 1 カリマンタンの地理・生態・経済・社会
(1)カリマンタンの自然的特徴
(2)カリマンタンの社会・経済的特徴
2. 2 民族紛争とその背景
(1)西カリマンタン州の民族紛争
(2)中カリマンタン州の民族紛争
2. 3 西・中カリマンタン州の民族紛争の特殊性
第3章 スハルト時代における権力と資源の分配
3. 1 地方首長ポストの分配
(1)スハルト時代の地方行政制度
(2)東カリマンタン州における地方首長の変遷
(3)中カリマンタン州における地方首長の変遷
(4)西カリマンタン州における地方首長の変遷
3. 2 天然資源開発をめぐる利権の分配
(1) 石油・天然ガス
(2) 石油・天然ガス以外の鉱物資源
(3) 森林資源
第4章 民主化・地方分権化後の地方首長の変化
4. 1 スハルト体制崩壊から民主化・地方分権化へ
(1)地方政府の新たな行政権限と経済的利権
(2)民主的地方首長選挙の導入
4. 2 カリマンタンの地方権力アクターたちとその特徴
(1)東カリマンタン州の地方首長たち
(2)中カリマンタン州の地方首長と地方ボス
(3)西カリマンタン州の地方首長たち
4. 3 地方分権化後の地方政治構造と地方経済構造の関係
第5章 東カリマンタン州の地方政治・経済構造──中央政治に翻弄される州政治エリートたち
5. 1 東カリマンタン州の社会的特徴とスハルト時代の政治構造
(1)民族・宗教的多様性
(2)地方分権化以前の政治構造
5. 2 東カリマンタン州の経済構造
5. 3 2003年州知事選挙
5. 4 スワルナ州知事による政財界人脈の構築
(1)スハルト時代のスワルナ
(2)スワルナ州知事第一期目(1998~2003)
5. 5 2003年州知事選挙におけるスワルナの協力者たち
5. 6 ダヤック人政治エリートたちの台頭過程
5. 7 中央政界の再編と地方権力エリートの盛衰
(1)スワルナの政治的衰退とシャウカニの台頭
(2)シャウカニの政治的衰退
(3)アワン・ファルク・イシャの政治的台頭と2008年州知事選挙
5. 8 2013年州知事選挙と今後の見通し
第6章 中カリマンタン州の地方政治・経済構造―地元実業家の政治的台頭
6. 1 中カリマンタン州の社会的特徴とスハルト時代の政治構造
(1)ダヤック人の多様性
(2)地方分権化以前の政治構造
6. 2 中カリマンタン州の経済構造
6. 3 2000年州知事選挙
6. 4 ハスヌル・グループ会長スライマン
(1)小売業者から企業グループ会長へ
(2)地方政界への進出
(3)地方首長の擁立
(4)さらなる政治・経済的利権を求めて──自治体新設運動の推進
6. 5 タンジュン・リンガ・グループ会長アブドゥル・ラシッド
(1)コタワリンギン地方の木材マフィア
(2)ラシッド・ファミリーの政界進出
(3)地方首長の擁立
(4)違法木材ビジネスの保護政策
6. 6 キリスト教徒のダヤック人政治エリート
(1)ウソップの社会的台頭
(2)LMMDD-KTの政治的限界
6.7 直接選挙制導入後の政治的展開
(1)2005年州知事選挙におけるキリスト教徒のダヤック人州知事の誕生
(2)テラス・ナランの支持基盤の拡大と2010年州知事選挙
(3)キリスト教徒のダヤック人政治エリートの政治的限界
第7章 西カリマンタン州の地方政治・経済構造──群雄割拠する中小規模の地方有力者たち
7. 1 西カリマンタン州の社会的特徴とスハルト時代の政治構造
(1)ダヤック人の民族的流動性
(2)地方分権化以前の政治構造
7. 2 西カリマンタン州の経済構造
(1)木材産業を担う華人業者たち
(2)新たな産業の発展とその担い手
(3)跋扈する労働者ボスたち
7. 3 2008年州知事選挙
7. 4 カリスマ的民族指導者の不在
(1)ダヤック人指導者ウファーン・ウライの死
(2)ダヤック人組織の設立
(3)マレー人組織の設立
7. 5 コーネリスの台頭過程
(1)スハルト時代のコーネリス
(2)県議会議事堂焼き討ち事件
(3)ランダック県知事選挙での当選
(4)県知事から州知事へ
(5)経済的影響力の拡大
7. 6 2012年州知事選挙──県政治エリートたちの権力争い
7. 7 西カリマンタン州の政治的特徴
(1)暴力の使用
(2)県知事の地方ボス化
終章 資源産出地域における政治と暴力