共編者からの紹介
21世紀に入ってから四半世紀が過ぎようとする日本では、都市化や過疎化、人口減少による移住外国人労働者の増加、高齢化がさらに進んだ将来のコミュニティの形など、様々な話題のなかで地域という対象が注目を集めています。新聞やテレビ、インターネットの空間で、その言葉をみかけない日はないでしょう。地域とは、ふだん何気なく使いながら、良く考えてみると本当の意味が曖昧で、しかし実体としての存在感がある、不思議な言葉です。
本書は、地域についての、様々な学術的・学際的・超学際的な取り組みを紹介するエッセイとコラムを集めたものです。執筆者の大多数は地理学を修めた研究者で、日本国内の事例にもとづいて話題を展開しています。
本研究所で地域研究というと、海外での調査にもとづく議論が中心です。海外での研究に関心をもつ読者の方々には、本書を通じて日本の社会と国内の学術の場で、いま地域という言葉がどう使われ、どのような関心を呼んでいるのかを知ることで、新鮮な読後感を手にしていただきたいと思います。それが、改めて自分自身の地域研究について考えるきっかけにつながれば、共編者のひとりとして、たいへん嬉しいです。(小林 知)
目次
序 地域学のすすめ─地域の可視化─(小長谷有紀)
第1部 地域学の見方・考え方
第1章 地域の希望学─その考え方と実践─(玄田有史・中村寛樹)
第2章 少子化・人口減少に向かう国家と地域─地域学の視点と課題─(山下祐介)
第3章 市民の地域学─地域を大切にして生活するために─(岡橋秀典)
第4章 新しい野の学問─専門家と地域の人びとが一緒に学ぶ「協学」のすすめ─(菅 豊)
第5章 地域という専攻─存在理由、ジレンマ、可能性─(小林 知)
第6章 地域からセーフティネットを構想する─ホームレス調査研究の経験から─(水内俊雄)
コラム 地域とドローン(小林 知)
第2部 地域学とひとづくり
第7章 人口減少時代における地域学の学び─地域学の実践と集落の記録づくり─(井口 梓)
第8章 地域学における学びと学びの評価(岩瀬峰代)
第9章 高校魅力化による人材養成と地域づくり(宮町良広)
第10章 多文化教育と地域学─神奈川県愛川町をフィールドとした社会科教員養成の実践から─(池口明子)
第11章 地域についての学びと観光(吉田道代)
第12章 食と農と地域の連携─福島大学食農学類における学生参画型実践教育の取り組み─(小山良太)
コラム 私と地域と協働と─対等であることは難しい(井口 梓)
第3部 地域学とまちづくり
第13章 「まちづくり」概念の成立と地域学(増田 聡)
第14章 歴史都市京都の地域の知を蓄積・発信するバーチャル京都(矢野桂司)
第15章 渋谷再開発とまちづくり─渋谷リバーストリートと渋三さくら祭─(田原裕子)
第16章 「小さな物語」が織りなす「まちの物語」─大分県佐伯市船頭町界隈の日常─(中澤髙志)
コラム 進水式を推進せよ(中澤髙志)
第4部 産業経済と地域学
第17章 「選択される地域」と「企業の地域学」の展開(佐無田光)
第18章 産業立地からみた地域の発展と変容(近藤章夫)
第19章 大規模災害からの創造的産業復興─南相馬市のロボット・ドローン振興─(山川充夫)
第20章 包摂的成長と地域(松原 宏)
コラム 人より牛が多い町からロケットが飛ぶ(宮町良広)
あとがき
索 引