時々の社会を映し出すマスメディア。中でも雑誌は特別の資料的意味を持つ。一号あたりの限られた誌面と定期性,なにより,新聞その他と決定的に違うのは,読者対象が明確に定められていることだ。それぞれの分野の「専門家」向けの,いわばローカルで特殊な記事の中に,その時代に普遍的な重大な関心事が織り込まれる。日本ではほとんど知られない「イスラーム専門誌」を題材に,大小の記事から,時代と社会を理解する情報を引き出すテクニックについて考える。
目次
イスラム教とマスメディア
多民族・多宗教の中でのイスラム教——東南アジア
活字離れ?
新聞・論文と雑誌
マレー語雑誌と「カラム」
イスラム雑誌の表紙を読む——メッセージが掴めますか?
雑誌「カラム」創刊以前のマレー社会
創刊の言葉と雑誌名
編集者——エドルスと「カラム」
文字——ローマ字かジャウィか
連載記事——読者との対話
共産主義の脅威——家族の価値が損なわれる
スプートニクの時代——西洋の科学技術に取り残されないように
ムスリム同胞団——「カラム」読者の地理的広がり
女性と教育
広告と社会
イスラム雑誌の諷刺画
フィールド科学にとっての雑誌情報
著者情報
山本 博之(やまもと ひろゆき)
1966年千葉県生まれ。2001年,東京大学大学院総合文化研究科博士課程・地域文化研究専攻単位取得退学。マレーシア・サバ大学専任講師,東京大学大学院総合文化研究科助手,在インドネシア・メダン日本国総領事館委嘱調査員,国立民族学博物館地域研究企画交流センター助教授などを経て,2006年より京都大学地域研究統合情報センター助教授(2008年より准教授)。博士(学術)。専門は東南アジア地域研究。主な研究テーマは,マレーシアの民族性と混血性,災害対応と情報,地域研究方法論,混成アジア映画。
主な著作に『脱植民地化とナショナリズム─ 英領北ボルネオにおける民族形成』(東京大学出版会,2006) ,『復興の文化空間学─ ビッグデータと人道支援の時代』(災害対応の地域研究1,京都大学学術出版会,2014) ,Bangsa and Umma: Development of People-Grouping Concepts in Islamized Southeast Asia (Kyoto University Press,2011,Anthony Milnerらとの共編著) ,Film in Contemporary Southeast Asia: Cultural Interpretation and Social Intervention (Routledge,2011,David Limとの共編著)など。