社会の本当の姿は、文献や統計では分からない。特に、「宗教」や「政治」といった、自分の社会、自分の身の回りにも「同じ」コトバがあるような事柄ほど、自分の常識から「理解」してしまいがちで、自分と異なる人々にとっての意味を掴むことができない。「宗教」や「政治」、単なる規制や制度ではない、人による実践だからだ。人々とともに食べ、ともに汗を流す中で、初めて掴める事柄があるのだ。
タイをはじめとする上座部仏教社会で長く調査してきたフィールドワーカーが、ことばの習得、信頼関係の築き方、聞き取りの方法、そして何より、多様な生が重層する世界で生きる生き方を語る、情報とは畢竟人であることを教える、現代フィールド科学の体験的入門書。
目次
現代世界の日常生活
本書のねらい
1 宇宙と同じく未知な〈日常〉
居場所をもとめて
重要な他者、知識の集積体としての人
魚は水を知らない、鳥は空を知らない
2 ことばを習得する技と作法
人から学ぶということ
暮らしのなかでことばを学ぶ
できあいの情報から離れてみる
公式の言説はどう読まれているか、に着目する
3 野生の哲学——You are what you eat の洞察
みられること——失敗こそフィールドワーク
定着調査で「たべる」——Scrap & Build
日本人はアジノモトでできている?
4 身体としての、実践としての知
似て非なるもの——東南アジアの仏教
身体を介して継承・実践される戒——知識と行い
行いと知識——実践宗教の核
5 「学知」は発展するが、現実は忘れられる——近代化が曇らせた眼
不純にして健全な見立て?
上座仏教をめぐる西欧と日本のレフレクション
仏教研究と仏教徒研究
——文化と社会、歴史、フィールド科学
5 身体を失った知を取り戻す想像力を育む
自文化と異国趣味からみえる共存への展望
異文化の扱い方
想像力——異文化は日常生活のなかに
教養知を活かす
生きている世界の足下をみる
著者情報
林 行夫(はやし ゆきお)
京都大学地域研究統合情報センター(現・東南アジア地域研究研究所)教授。京都大学博士(人間・環境学)。
1955 年大阪生まれ。大阪府立旭高校卒業。龍谷大学文学部社会学科、同大学大学院文学研究科社会学専攻博士課程修了。京都大学東南アジア研究センター研究生を経て、タイ国チュラーロンコーン大学大学院政治学部人類学社会学科留学(文部省アジア諸国等派遣留学生1981-1983)。国立民族学博物館研究部助手(1988-1993)、京都大学東南アジア研究センター(のちに東南アジア研究所)助教授、教授(1993-2006)、京都大学地域研究統合情報センター教授(2006-2016)。