格差拡大を背景にした民主主義の動揺が世界的に広がる一方,クリミア併合や「イスラム国」,南シナ海問題など,第二次大戦以降世界が経験しなかった力による版図の変更さえもが進行している。平和と安定を再構築するための新しい途はどこにあるのか? 旧体制や「伝統」を乗り越えようと格闘する,非欧米地域の社会の中に可能性を見る。
目次
環太平洋研究叢書シリーズの刊行にあたって [村上勇介・帯谷知可]
序 章 秩序形成に向けた動態的視座の構築をめざして
── 環太平洋地域を起点に [村上勇介・帯谷知可]
世界秩序の変容を浮き彫りにした14年という画期
制度の融解、秩序の砂塵化がもたらした世界の混沌
市場経済による格差拡大と民主主義の動揺・後退
「システム・体制」と「行為主体」からみる環太平洋地域 ── 本書の目的と構成
第I部 動揺する国家と社会の枠組みの現在
第1章 権威主義の進化、民主主義の危機
── 世界秩序を揺るがす政治的価値観の変容 [宇山 智彦]
1 権威主義のアップグレードとポピュリスト権威主義
2 権威主義の拡散?──諸国間のモデル学習と連携
3 欧州への権威主義の拡散 ── プーチンと欧州右翼を結ぶ「伝統的価値」
4 米国て?の権威主義の伸張とトランプ当選
5 世界秩序と民主主義の危機の原因 ── グローバル化への不安、露中の「復讐」
6 20世紀後半型国際秩序の終焉と政治学のパラダイム転換の必要性
第2章 民主主義の揺らぎとその含意
── 今世紀のラテンアメリカの状況から [村上 勇介]
1 ラテンアメリカの民主化とその後
2 近年の民主主義体制毀損の原因
3 民主主義の意味内容
4 中長期的な経済社会アジェンダを争点とする政党政治の重要性
第3章 中国の資本主義的発展をどうとらえるか
──歴史的「制度」の視点から [梶谷 懐]
1 「制度」から考える中国の経済発展
2 スミス的成長をめぐる日中の「小分岐」
3 脆弱な財産権の下での「イノベーション」は可能か?
4 「国家」と「民(間)」の関係性をめぐって
第4章 イスラーム観の違いを克服する
── ポスト社会主義、イスラーム復興、権威主義の交錯するウズベキスタンの課題
[帯谷 知可]
1 「伝統」をめぐるパラダイムの転換 ── ソ連時代と何が変わったのか
2 よいイスラーム/悪いイスラームの二分法──「ナショナルなイスラーム」の模索
3 二人のカリスマ
4 ポスト・カリモフの時代のイスラームと政治の展望
第II部 アクターが作りだす位相
第5章 分極化するアメリカ── その背景と課題 [大津留(北川)智恵子]
1 分極化の背景
2 バッファー・ゾーンを失う民主党
3 将来像を描ききれない共和党
4 おわりに──アメリカ社会の課題
第6章 「現象」としての「イスラーム国(IS)」
── 反国家・脱国家・超国家 [末近 浩太]
1「反国家」の「組織」としてのIS
2「脱国家」の「国家」としてのIS
3「超国家」の「思想」としてのIS
4 おわりに──「組織」、「国家」、「思想」の連環
第7章 インドネシアにおける暴力をめぐる公私のポリティクス
[岡本 正明]
1 東南アジアにおける非国家的セキュリティ・プロバイダー
2 インドネシアにおける暴力の公と私
3 国家から見た私的暴力装置の合法性と許容性
第8章 現代イスラーム経済の挑戦
── ポスト資本主義時代の新たなパラダイムのために
[長岡 慎介]
1 飛躍する現代イスラーム経済
2 イスラーム経済のアイデンティティ・クライシス
3 現代に再興するイスラーム社会経済システム
4 利己主義と利他精神が共存する新たなパラダイムの可能性
第9章 UAE のフィリピン人ムスリム女性家事労働者
── ムスリム・アイデンティティのゆらぎと複層化
[石井 正子]
1 フィリピン南部のムスリム社会 ── 海外労働者送り出しの背景
2 湾岸アラブ諸国のフィリピン人家事労働者の実態 ── UAE の事例を中心に
3 社会統合論理の不在とフィリピン人コミュニティ
4 日本の家事労働者受け入れへの示唆
終 章 砂塵化を超克する試みの萌芽
[村上勇介・帯谷知可]
日常的営為の積み重ねから見出す可能性
多元・多層の秩序世界か ? ── 複合的な共存空間
索引
著者情報
編著者
村上 勇介(むらかみ ゆうすけ)
序章、第2章、終章担当
1964年生京都大学東南アジア地域研究研究所准教授 博士(政治学)
ラテンアメリカ地域研究、政治学専攻
最近の業績は『融解と再創造の世界秩序』(帯谷知可との共編)(青弓社、2016年)、『21世紀ラテンアメリカの挑戦 ── ネオリベラリズムによる亀裂を超えて』(編著)(京都大学学術出版会、2015年)他。
帯谷 知可(おびや ちか)
序章、第4章、終章担当
1963年生京都大学東南アジア地域研究研究所准教授
中央アジア近現代史、中央アジア地域研究専攻
最近の業績は『融解と再創造の世界秩序』(村上勇介との共編)(青弓社、2016年)、“Islam and Gender in Central Asia: Soviet Modernization and Today’s Society”(CIAS Discussion Paper No.63) (編著)(CIAS、2016年)、他 。
著者
宇山 智彦(うやま ともひこ)
第1章担当
1967年生 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授
中央ユーラシア近現代史、比較政治学専攻
最近の業績は『ユーラシア近代帝国と現代世界』(編著) ミネルヴァ書房、2016年)、Asiatic Russia: Imperial Power in Regional and International Contexts (編著) (Routledge,2012)、他。
梶谷 懐(かじたに かい)
第3章担当
1970年生 神戸大学大学院経済学研究科教授 博士(経済学)
現代中国経済研究(おもに財政・金融)専攻
主な著書に『現代中国の財政金融システム』(名古屋大学出版会、2011年) 、『「壁と卵」の現代中 国論』(人文書院、2011年)、『日本と中国、「脱近代」の誘惑』(太田出版、2015年)、『日本と中国経済』(ちくま新書、2016年)などがある。
大津留(北川)智恵子(おおつる きたがわ ちえこ)
第5章担当
1958年生 関西大学法学部教授
アメリカ地域研究、政治学専攻
最近の業績は『戦後アメリカ外交史(第3版)』(佐々木卓也編、有斐閣、2017年)、『アメリカが生む/受け入れる難民』(関西大学出版部、2016年) 他 。
末近 浩太(すえちか こうた)
第6章担当
1973年生 立命館大学国際関係学部教授 博士(地域研究)
中東地域研究、国際政治学、比較政治学専攻
著作に『現代シリアの国家変容とイスラーム』(ナカニシヤ出版、2005年)、『現代シリア・レバノンの政治構造』(岩波書店、2009年、青山弘之との共著)、『イスラーム主義と中東政治 ── レバノン・ヒズブッラーの抵抗と革命』(名古屋大学出版会、2013年)、『比較政治学の考え方』(有斐閣、2016年、久保慶一・高橋百合子との共著)など。
岡本 正明(おかもと まさあき)
第7章担当
1971年生 京都大学東南アジア地域研究研究所教授 博士(地域研究)
東南アジア地域研究、政治学専攻
最近の業績は「第4章 インドネシアにおける政治の司法化、そのための脱司法化 ── 汚職撲滅 委 員 会 を 事 例 に 」 玉田芳史編著『政治の司法化と民主化』(晃洋書房、2017年)74-101頁、『暴力と適応の政治学 ── インドネシア民主化と地方政治の安定』(京都大学学術出版会、2015年)
長岡 慎介(ながおか しんすけ)
第8章担当
1979年生 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科准教授 博士(地域研究)
イスラーム経済論専攻
最近の業績は『お金ってなんだろう? ── あなたと考えたいこれからの経済』(平凡社、2017年) 、『現代イスラーム金融論』(名古屋大学出版会、2011年)、他。
石井 正子(いしい まさこ)
第9章担当
1968年生 立教大学異文化コミュニケーション学部教授 博士(国際関係論)
フィリピン地域研究専攻
最近の業績は『湾岸アラブ諸国の移民労働者 ── 「多外国人国家」の出現と生活実態』(共著)(明石書店、2014年)、『小さな民のグローバル学 ── 共生の思想と実践をもとめて』(共著) (上智大学出版、2016年)