Songphan Choemprayong | 京都大学 東南アジア地域研究研究所

VISITOR’S VOICE

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Interview with ソンパン・チャンムパラヨン »

チュラロンコン大学

— お気に入りを教えてください。

システムと技術
私は自分のことを純粋な科学技術者というより、「システムマニア」だと思っています。例えば図書館のようなシステムのさまざまな構成要素が、技術を用いることで総体としていかに効率的に機能するかを理解することに関心があるからです。新しい技術をそれ自体のために追求し取り入れるのではなく、私たちの仕事や生活の仕方を改善する機会ととらえて技術と向き合っています。単に技術そのものに関心があるというより、そうした技術的ツールが、それらが属するより大きなシステムにどう組み込まれ、システムの機能をどう向上させるのかに関心があります。

文化的体験
図書館、美術館・博物館、ギャラリー、書店など文化的な場所や施設によく出かけます。多様な文化的体験に興味があり、それが私の視野を広げてくれます。こうした体験は、私の批判的思考と創造的思考を育み、自分を取り巻く世界を表現し解釈する独自の方法を見つけるためのインスピレーションを与えてくれます。

マインドフルネスの学び
マインドフルネスは私にとって、定まった状態ではなく継続中の旅のようなものです。生活のあらゆる面において、「いま・ここ」にある自分の存在を意識することです。こうしたマインドフルネスを継続的に学び、実践しようとしていて、それはさまざまな課題を切り抜けるための有益な方法になっています。また、人生の良いときも悪いときもバランスの取れた視点を保つことで、状況がどうであれ自分の軸を維持し、レジリエンスを身に着けることができます。

Interview


不均衡な状況下での知識


01

ご研究について教えてください。

CSEASでは、タイでの同僚のホリー・ホワイト氏(Hollie White)との共同研究プロジェクトを行っていますが、開始したのは新型コロナウイルスのパンデミックが起こる前です。特にタイの図書館を対象とし、書誌学のグローバルな連携について課題と機会を考察しようとするものです。この研究を進める背景にはある厳しい認識があります。図書館は一般に資料の共有と連携ネットワークの恩恵を受けますが、タイの図書館は非主流文化圏の図書館の例に漏れず、障壁にぶつかることが多いということです。言語の違い、知識の生産に関する文化的観点の相違、限られたリソースなどが障壁となり、タイの図書館がグローバルな書誌ネットワークに全面的に参加することを妨げています。

こうした状況からいくつか重要な問いが浮かんできました。タイの図書館が連携ネットワークに参加できないのであれば、タイ関連資料を包含した書誌ネットワークの共有に誰が貢献するのか。タイ関連資料を所蔵するタイ国外の図書館は、こうした情報へのアクセスにどう影響するのか。そして重要なこととして、タイ関連資料の流通や入手可能性に偏りがある状況は、タイ研究者の知識の生産にどう影響するのか。

私たちの研究の独自性は、タイ一国にとどまらない点にあります。私たちは特に日本に関心を寄せています。世界的に見ればアングロサクソン/ヨーロッパ系ではない書誌文化をもつ国のほうが多く、日本もその一つです。タイ関連資料が日本でどのように収集され、記述されるのかを検討し、資料入手をめぐるより広範な複雑性と、タイのような主流でない文化に関する知識の構築を理解することを目指しています。この研究プロジェクトはただ単に目録作成の実践だけではなく、ますます相互につながる世界における文化の表象と知識の入手可能性について考察を深めようとするものです。

この研究をとおして、より包摂的・網羅的なグローバルな書誌ネットワークの構築を可能とする知見を提示したいと思っています。豊かで複雑なタイの文化と知識へのアクセスを可能とし、タイの文化と情報を世界に正確に伝え、世界文化のより多様かつ包括的な理解に貢献することを目指しています。


02

研究で出会った印象的なひと、もの、場所について、エピソードを教えてください。

研究の過程で、数々のエピソードがさまざまな感情を伴って、私の心に強く印象づけられてきました。タイ以外の国で収集された資料からタイに関係する希少な資料が見つかると、いつもびっくりします。そうした資料はたいてい唯一無二のもので、タイ国内では出合えないものもあります。特に興味をそそられるのは、タイで禁書になるか検閲を受けた資料や、国内で重要視されなかった資料に出合ったときです。

私は研究で外国に出かけ、ありがたいことに、タイ関連資料の収集にたいへん熱心なタイ人ではない研究者や司書、そして研究機関と出会ってきました。彼らの熱意はひしひしと伝わり、本当に頭が下がります。しかしそれはタイでの経験とは対照的です。タイにも同様に熱心な専門家がいますが、最善の努力をしても克服できない課題が立ちはだかり、貴重なタイ関連資料をより広範な読者に提供できないでいます。資源の制約、煩瑣な手続き、あるいは文化的障壁に阻まれ、その努力はほとんど実を結んでいません。

タイ関連資料の目録作成に携わる海外在住のタイ人との出会いも印象深い体験です。彼らの多くは正規の教育や図書館学の専門的な知識を持っていませんが、精力的に作業を続けています。その献身ぶりは驚くべきもので、彼らは自分の仕事の意義を十分に理解しているのだろうかと私はよく思います。彼らの活動は(無自覚かもしれませんが)タイの文化と遺産の世界レベルでの保存と活用に大きく貢献しているのです。

こうした出会い(希少な資料、熱意ある専門家、献身的な人々)は、私の研究を豊かにするだけでなく、タイ国内外での文化の保存と知識の普及に伴う複雑性を違った角度から理解する上でも役立ちます。


03

研究の成果を論文や本にまとめる際の難しさをどのように克服していますか?

研究したことを論文や本にするという難題を克服することは、私にとって多面的なプロセスです。最も有効な方法の一つは、自分の研究についてさまざまな人と積極的に語り合うことだと気づきました。こうした対話で自分の理解が確かなものになるだけでなく、読者を想定し、読者が期待するものを思い描くことができ、論文や本の骨格や構成を考えるヒントが得られます。

とはいえ、最もたいへんなのは時間管理です。時間管理については数知れない方法がありますが、私にとって欠かせないのは、達成可能な目標に沿って現実的な締め切りを設けることです。そうすると緊迫感が生まれ、方向性が定まって書き進めることができます。

もう一つ重要な秘訣は、大きなプロジェクトを管理可能な小さな単位に区分けすることです。こうすると単位ごとに小さな成果を喜べますし、小さな成果が励みとなって次の作業に進めます。執筆する過程でフォーマットなどの細かな点に注意を払うこともこの方策に含まれます。こうした一見ささいな作業を重ねることで徐々に達成感が生まれ、実現可能なプロジェクトであるとの確信が強まります。

私の研究活動において、協働作業もまた重要な役割を果たしています。私が研究プロジェクトの多くを実現できたのは、チームで取り組んだからです。研究は本質的に集団での取り組みを必要とすることが多く、チームの構成員一人ひとりが協力し合うという精神で力を尽くすからこそ成果が生まれるのです。こうした仲間意識と共通の目的をもつことは、研究に伴う現実的な課題を克服する助けとなるだけでなく、執筆のプロセス全般を充実させ、そして、論文や本の完成に向けた道のりを実現可能かつ充実したものにしてくれます。


04

若い人におすすめの本があれば教えてください。

私のこれまでの研究や人生に大きな影響を及ぼしたのは、1972年に学会誌『アメリカ社会学ジャーナル(American Journal of Sociology)』に掲載されたロバート・K・マートン(Robert K. Merton)の論文Insiders and Outsiders: A Chapter in the Sociology of Knowledgeです。この論文は、まったく異なる世界観の形成と機能を深く考察し、社会学に限らず、心理学、政治学、経済学、哲学など他の学問分野や、地域研究、科学技術研究など学際的分野に対しても貴重な洞察を提示しています。

インサイダーとアウトサイダーの関係に関するマートンの考察が私の博士論文の土台になりました。私はマートンの枠組みを用いて、2006年のタイ軍事クーデターの数日間にどのような情報がやりとりされたのかを分析したのです。この概念は、タイ内外のタイ関連資料に関する私の現在の研究、特に書誌文化における権力の不均衡を考察するうえで、今も重要な要素となっています。

マートンの論文は学問的意義にとどまらず、私が日々の生活において自分とは違った世界観をどう理解し、それとどう向き合うのかということに大きく影響しています。論争や対立が絶えない世界で生きることに対する考え方や姿勢を再構築してくれました。インサイダーとアウトサイダーの区別の流動性は、さまざまな文脈で、一見ささいな日常においてもあてはまるものです。

マートンの古典的な論文は、最初は読むのにとても苦労するでしょう(実は私もそうで、中心となる概念をつかむのに何度も読み返さなくてはなりませんでした)、でも、その努力は報われます。読んで得た洞察によって、自分の研究テーマに対する理解が深まり、さらには自己発見が増え、複雑な世界における自分の立ち位置についての見方が広がりました。

マートンの論文は、意欲的な研究者、特に社会科学や人文学の研究者に、知識と力と文化的表象の力学をどう理解するのかについて、時代を超えた深遠な視座を与えてくれます。複雑に織りなされた人間の思想と社会をもっと深く理解したいと思われるなら、ぜひとも読むべきです。

 (2024年1月)

参考文献


Merton, R.K. 1972. Insiders and outsiders: A chapter in the sociology of knowledge. アメリカ社会学ジャーナル(American Journal of Sociology), 78(1), pp.9-47.


ソンパン・チャンムパラヨンSongphan Choemprayong

タイ、バンコクのチュラロンコン大学文学部図書館学科准教授。また、チュラロンコン大学文学部アーク・オブ・メモリー(Arc of Memory)研究ユニットおよびサシン経営大学院社会科学における行動研究と情報学研究ユニットのメンバーでもある。ノースカロライナ大学チャペルヒル校で図書館情報学の博士号を取得後、ヴァンダービルト大学メディカルセンターでナレッジマネジメント・リーダーシップ・リサーチフェローとしてポスドク研修を受ける。現在は、学術的、社会的、個人的、医学的な文脈における情報システムやサービスに対する人間の視点に関心を寄せている。東南アジア地域研究研究所招へい研究員として2024年1月~4月に在籍。


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