著者からの紹介
錦絵、風刺画、絵葉書、写真、グラフ誌、映画など、当時最新の技術を用いて普及したビジュアル・メディア。これらは、日清戦争期から日本の占領期に至るまで、政府・軍部・報道界・興行界がプロパガンダ(政治宣伝)の装置として駆使し、国民の間に戦争熱を喚起させた媒体であった。ただ本書を戦前のプロパガンダ史という枠組みからではなく、ぜひ今日につづくビジュアル・メディア、ジャーナリズムを理解する一書として読んでもらいたい。
目次
まえがき i
序 章 戦争と宣伝 3
帝国日本の空間イメージ 帝国日本の崩壊 プロパガンダ=宣伝の主体
第1章 日清戦争期 ――版画報道の流行(一八九〇年代) 13
1 戦争と同期する帝国日本のメディア、演劇 15
「戦争錦絵」の登場 錦絵業者の歓喜 錦絵と新旧演劇との交差
「平壌の戦い」と清軍イメージ
2 石版画が伝える大清帝国の「戦勝」報道 28
『点石斎画報』に見られる愛国主義 「戦勝報道」の根幹にあるもの
3 欧州メディアが伝える東アジアの戦争風景 31
新聞の細密画 写実的な戦場イラスト 「戦争熱」の炎上と収束
第2章 日露戦争期 ――「戦勝神話」の流布(一九〇〇年代) 41
1 帝国日本に浸透する写真、絵葉書、活動写真 43
広報外交とメディア・ナショナリズム 戦況写真の登場写真利用の多様化
絵葉書ブームの到来 活動写真=映画の登場
2 ロシア帝国で流行する民衆版画と写真術 54
農村部に広まったルボーク 奉天会戦の悲劇 都市部に普及した絵葉書や画冊
「戦争熱」から「革命熱」へ
第3章 第一次世界大戦期 ――日独戦争をめぐる報道選択(一九一〇年代) 65
1 青島の戦いをめぐる報道 66
戦争の発端 日独報道合戦 出版業界への波及 戦争画・戦争映画の人気
2 南洋群島の日独戦争 76
西太平洋への帝国日本の進出 ドイツ人捕虜の視覚化
プロパガンダ史の画期点
第4章 中国、米国の反日運動 ――報道と政治の関係(一九二〇年代) 85
1 済南事件と日貨排斥をめぐる日中の報道 86
国民革命軍と日本軍の衝突 戦況写真の空輸 戦況写真のリアリティ
映画ブームの到来 上海での反日運動の組織化
2 排日移民法をめぐる日米の報道 96
米国の反日運動 「排米熱」の高まり
第5章 台湾霧社事件と満洲事変 ――新聞社と軍の接近(一九三〇年代前期) 103
1 霧社事件をめぐる報道と政争 104
セデック族の集団蜂起 事件写真とニュース映画 虐殺の連鎖
霧社事件の政治化
2 満洲事変報道と戦況写真 112
満洲事変の捉え方 『朝日』論説の大転換 満洲を伝えるビジュアル・メディア
満洲と台湾での戦況報道
第6章 日中戦争期 ――国家プロパガンダの絶頂期(一九三〇年代後期) 123
1 国産映画の流行 125
写真宣伝 戦争のスペクタクル 映画とプロパガンダ 戦時下の博覧会ブーム
軍事映画ブーム
2 複数の「満蒙問題」 140
朝日所蔵の「富士倉庫資料」 三つの重大事件
第7章 アジア太平洋戦争期 ――ビジュアル報道の衰退(一九四〇年代前期) 153
1 国家総動員体制下の言論封殺 154
新聞メディアの「死」 軍宣伝班と軍報道班 大本営発表の虚構
大東亜共栄圏構想の流布 台湾沖航空戦の「誤報」
2 国防のための台湾の「内地化」 163
台湾軍司令部の検閲 特別志願兵制度 台湾での徴兵 南方戦線の報道
終 章 敗戦直後 ――占領統治のためのプロパガンダ(一九四〇年代後期) 173
1 多様な「終戦」像 174
「終戦の日」の解釈 ひとつひとつの「終戦」
2 GHQ占領下の日本 180
占領統治の開始 占領下の検閲と教育啓蒙活動
3 米軍占領下の沖縄 187
米軍政のもとで 米軍のプロパガンダ工作
あとがき 195
参考文献 199
図版出典一覧 206
著者情報
関連情報
「ブックトーク・オン・アジア」No.46 貴志俊彦『帝国日本のプロパガンダ──「戦争熱」を煽った宣伝と報道』(中公新書、2022年)