戦後70年が経過して、いまなお語り継がれる記憶と忘却の間際にある記憶が東アジアには点在している。戦争や災害の記憶を風化させず、ほかの地域でも教訓として活用するためにはどういう視点が必要か。京都大学の地域研究の成果から問うアジアの記憶のかたち。
目次
プロローグ アジアからの記憶の召還技法 貴志俊彦/山本博之/西 芳実/谷川竜一
第1部 二十一世紀的地域像を拓く
第1章 ミライの復興地――昭和三陸津波と東日本大震災 岡村健太郎
1 復興地の全体像
2 吉里吉里集落の復興地に刻まれた災害の記憶(事例分析一)
3 港・岩崎集落の復興地に刻まれた災害の記憶(事例分析二)
第2章 記憶のアーカイブ――スマトラ島沖津波の経験を世界へ 西 芳実
1 紛争と被災
2 証言集――地域の繋がりを取り戻す
3 自分史――時間の繋がりを取り戻す
4 今昔写真――移り変わりを可視化する
第3章 家系図の創造――ボルネオの黄龍の子孫たち 山本博之
1 黄龍の家系図
2 ボルネオの中国人と先住民
3 忘れたふりをする私たち
第2部 二十世紀的記憶を結ぶ
第4章 往古への首都建設――平壌の朝鮮式建物 谷川竜一
1 朝鮮式建物を読み解く
2 往古への首都建設
第5章 戦争の記憶と和解――韓国軍によるベトナム人戦時虐殺問題 伊藤正子
1 記憶の語り方――韓国の場合
2 記憶の語り方――ベトナムの場合
3 報道十年後の軋轢
第6章 交錯する農村の近代――岩手県沢内村と黒龍江省方正県 坂部晶子
1 沢内村の近代と中国
2 方正県の近代と日本
3 二つの村の近代をつなぐ
第3部 二十世紀的記憶を描く
第7章 黒船来航と集合的忘却――久里浜・下田・那覇 泉水英計
1 久里浜――国際政治のなかの日米関係
2 下田――観光資源としての開国史
3 那覇――日米の狭間で
第8章 日本人の性的表象――南洋を描いた中国語小説 及川 茜
1 張貴興が伝える日本イメージ
2 陳千武が描くティモール島の戦争体験
3 李永平が描く日本人
第9章 グラフ誌が描かなかった死――日中戦争下の華北 貴志俊彦
1 満鉄の華北進出とグラフ誌の刊行
2 華北交通発行のグラフ誌とその特徴
エピローグ 相関地域研究についてひとこと――比較と関係性 貴志俊彦/山本博之/西 芳実/谷川竜一
著者情報
貴志 俊彦(キシ トシヒコ)
1959年、兵庫県生まれ。京都大学地域研究統合情報センター教授、日本学術会議第23期連携会員。専攻は東アジア地域史研究。著書に『満洲国のビジュアル・メディア』(吉川弘文館)、『東アジア流行歌アワー』(岩波書店)、『日中間海底ケーブルの戦後史』(吉川弘文館)、共編著に『二〇世紀満洲歴史事典』(吉川弘文館)、編著に『近代アジアの自画像と他者』(京都大学学術出版会)など。
山本 博之(ヤマモト ヒロユキ)
1966年、千葉県生まれ。京都大学地域研究統合情報センター准教授。専攻は東南アジア地域研究(ナショナリズム論、災害対応と情報、映画と社会)。著書に『脱植民地化とナショナリズム』(東京大学出版会)、『復興の文化空間学』(京都大学学術出版会)、共編著にBangsa and Umma: Development of People-grouping Concepts in Islamized Southeast Asia(Trans Pacific Press)、Film in Contemporary Southeast Asia: Cultural Interpretation and Social Intervention(Routledge)など。
西 芳実(ニシ ヨシミ)
1971年、東京都生まれ。京都大学地域研究統合情報センター准教授。専攻はインドネシア地域研究、アチェ近現代史。著書に『災害復興で内戦を乗り越える』(京都大学学術出版会)、共著に『紛争現場からの平和構築』(東信堂)、『自然災害と復興支援』(明石書店)、論文に「信仰と共生」(「地域研究」第13巻第2号)など。
谷川 竜一(タニガワ リュウイチ)
1976年、大分県生まれ。京都大学地域研究統合情報センター助教。専攻はアジア近代建築史・都市史。共著に『岩波講座東アジア近現代通史別巻 アジア研究の来歴と展望』(岩波書店)、論文に「一九三九年、烏口の記憶」(「Mobile Society Review」vol.14)、「流転する人々、転生する建造物」(「思想」第1005号)など。