共編者からの紹介
本書は、2010年代のフィリピン社会と国家の変動を、具体的なフィールドワークとその経験から描き出した著作です。本書では、公的な領域における社会福祉の拡充、制度上の改革といった近代化やフォーマル化への評価と、一方で親密な領域における相互扶助や家族関係がこの変動を支えながら歪んでゆく問題を検討しています。
本書の特色は編者を含めて12人という執筆者の多さにもかかわらず、多くの議論が研究会だけでなくインフォーマルな場(たとえばFacebookのチャットグループなど)を通じて行われてきたことにあり、各論考のあいだでの相互引用と厳しい批判もなされる有機性にあります。
そして、フィリピン経済と新自由主義やグローバリゼーションが取り結ぶ関係性を各著者がどのように受けとめるのか、各々のフィールドでそれらはいかに現れていたのかを共有し議論する過程で、制度の近代化と親密性の歪みへの評価が執筆者の間でまったく異なることが明らかになりました。
フィリピンという地域で知識を生産する際、いかなる土壌をアカデミアでつくり出すことができるのか。本書は地域研究における知識生産のあり方に対して、一つの方法を提示しています。(西尾善太)
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