著者による紹介
本書の目的は、暴力による政権交代のサイクルと知識生産の相互関係について明らかにしつつ、ティモール島に関して1860年代から2010年代までの新たな歴史認識を確立することです。著者の土屋喜生は、国際的に流通している東ティモールに関する歴史認識は、大規模で破壊的な戦争→政権交代→平定過程という世代ごとに繰り返す歴史のリズム、島内に国境が引かれた島であるという特異な条件、そして外国人の知識生産者たちの比較優位という3つの長期的な要因によって方向付けられてきたと主張します。このような構造の中でこそ、ティモール人や外国人の地政学的、組織的、そして個人的な関心や想像力が、私たちの知ることができる(東)ティモール論(とそれに基づくナショナリズム論)として展開されてきたのです。
知識の恣意性、構造性、逆戻りの現象を受け入れた上で、著者はティモールと世界のつながり、社会的変化、歴史的事件、政治運動の物語を紡いでいきます。また、ポルトガル人植民地職員から形質人類学者へ、日本の占領軍からオーストラリアの活動家たちへ、ティモール人の詩人から革命家たちへといったように、これまで着目されてこなかった関係や人々のコミュニティを追跡しつつ(東)ティモール論の系譜を明らかにします。そして著者によれば、(東)ティモール論の論者たちの経験と理論は、学術書、旅行記、秘密文書、政策、儀式や式典、革命歌、博物館等、実に多様な方法で表現されてきました。著者は、このように多数のジャンルと言語にまたがる膨大な史料を紹介しつつ、(東)ティモール史と東ティモールナショナリズム論のミッシングリンクを埋めていきます。
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