清水展 京都大学名誉教授は2025年2月22日に逝去されました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
清水先生は、1976年に東京大学大学院社会科学研究科文化人類学専攻修士課程を修了後、文部省派遣留学生としてフィリピンのアテネオ・デ・マニラ大学に留学し、2年余の現地調査を実施されました。帰国後東京大学教養学部助手、同東洋文化研究所助手をへて1985年より九州大学教養部助教授を務められ、1987年東京大学より社会学博士号を取得、1994年に九州大学大学院比較社会文化研究院教授に昇任されました。この間、ハーバード大学およびアテネオ・デ・マニラ大学にて客員研究員、北京日本学研究中心で客員教授を務められました。本研究所の前身となる京都大学東南アジア研究所には2006年に教授として着任、2010年度から14年度まで所長を務められ、研究所における研究の充実、大学院アジア・アフリカ地域研究研究科における教育、そして研究所と大学の運営に尽力されました。2017年に京都大学を定年退職後、2021年まで関西大学特別任用教授を務められました。
清水先生は文化人類学を専門とし、フィリピンを主なフィールドとして調査研究を展開されました。長期のフィールドワークにもとづく綿密な参与観察から生まれる「厚い民族誌」が清水先生の著作の特徴です。そして20世紀最大級のピナトゥボ火山大噴火被災者への緊急・復興支援に深く長く関わってこられた経験と知見をもとに、学際研究に積極的に参加され、自然災害をめぐる共同研究を進められました。時々の喫緊の課題に常に正面から取り組み、その対処や解決の方途を現地の人々や関係者とともに探る先生の研究スタイルは、文化人類学や東南アジア研究にとどまらず、開発援助や災害対応に関わる専門家や一般読者に大きな示唆と影響を与えてきました。そしてこのような実践的で学際的かつ独創的な研究が高く評価され、2016年に文化人類学会賞、2017年に日本学士院賞を受賞、また2024年には瑞宝中綬章を受章されました。
教育面においては、九州大学と京都大学、関西大学を通じて多くの大学院生や若手研究者を指導し、数多の優れた学生を世に送られました。清水先生がもつ大きな視野と温厚で誠実な人柄により、アジア各地で広く研究者と親交を持たれ、所長在任時に「アジアにおける東南アジア研究コンソーシアム(SEASIA)」の設立を実現され、英文誌Southeast Asian Studiesを創刊されたことをはじめ、開かれた研究交流の場として研究所を育ててゆくための多くの種を蒔かれました。
2025年3月
京都大学東南アジア地域研究研究所
所長 三重野 文晴
清水展名誉教授 著書一覧
清水展『出来事の民族誌:フィリピン・ネグリート社会の変化と持続』九州大学出版会、1990年;新装版、2019年。
───『文化のなかの政治:フィリピン「二月革命」の物語』弘文堂、1991年。
───『噴火のこだま:ピナトゥボ・アエタの被災と新生をめぐる文化・開発・NGO』九州大学出版会、2003年;新装版、2021年。
───『草の根グローバリゼーション:世界遺産棚田村の文化実践と生活戦略』京都大学学術出版会、2013年。
───『アエタ 灰のなかの未来:大噴火と創造的復興の写真民族誌』京都大学学術出版会、2024年。
清水展・木村周平編著『新しい人間、新しい社会:復興の物語を再創造する』京都大学学術出版会、2015年。
清水展・飯嶋秀治編著『自前の思想:時代と社会に応答するフィールドワーク』京都大学学術出版会、2020年。
清水展・小國和子編著『職場・学校で活かす現場グラフィー:ダイバーシティ時代の可能性をひらくために』明石書店、2021年。
稲村哲也・山極壽一・清水展・阿部健一編著『レジリエンス人類史』京都大学学術出版会、2022年。
Hiromu Shimizu, Pinatubo Aytas: Continuity and Change, Ateneo de Manila University Press, 1989; reprinted in 1991.
───, The Orphans of Pinatubo: Ayta Struggle for Existence, Solidaridad Publishing House, 2001.
───, Grassroots Globalization: Reforestation and Cultural Revitalization in the Philippine Cordilleras, Kyoto University Press and Trans Pacific Press, 2019.