編者よりひとこと
21世紀の東南アジア政治についての概説書のようなものがあればとずっと思っていました。英語でも日本語でも残念ながらありませんでした。そうした思いを抱いたまま、10年以上経ったころ、法律文化社の八木さんから東南アジア政治の教科書作成依頼がありました。それなら、東南アジア政治の研究者を集めて書き上げるしかないと、編者に中西さん、大庭さんを巻き込んでできたのが本書です。21世紀の東南アジア政治を理解するうえで何が重要なのかを議論するなかで、課題別の章構成とすることが決まりました。そして、各章で2、3カ国を取り上げるように執筆者にお願いして書き上げてもらいました。編集の過程では、何度となく編者たちから執筆者にツッコミが入り、執筆者の先生方も大変だったと思います。でも、政治に興味がない人でも手にとって読んでいただける、21世紀の東南アジア政治を学ぶ入り口になるような本になりました。東南アジアに興味をもつ多くの人に読んでもらえるとうれしいです。(岡本正明)
すぐに時代遅れにならないように気をつけるのが教科書を構想する際の勘所。でも、基本ばかり書いていたら類書と似通った内容になるし、現地の変化の速さと感覚がずれるよなー、どうすっかなー、なんて編者たちで頭を悩ませているうちに、企画から出版まで時間がかかってしまいました。結局、時代別でも、国別でも、ディシプリンベースでもなく、課題ベースで章を分けて、主に21世紀の東南アジアを扱った教科書をつくってはどうかということになり、各執筆者のご協力のおかげでなんとか完成しました。編者の狙いがうまくいっているかどうか、その評価については読む人の判断に委ねるしかないのですが、毛色の少し違う教科書になったのではないかと思っております。グローバルな課題といっても、そのひとつひとつは各地固有の文脈のなかで起きています。具体的な検討や解決のためには、抽象的な解決ツールと細やかな現地理解の双方が必要です。この本が東南アジアで起きているグローバルな政治課題への理解を深めることに役立てばと願います。(中西嘉宏)
目次
はしがき 21世紀の東南アジア政治を学ぶ/東南アジアとは/本書の構成と内容
第I部 歴史
第1章 東南アジア世界の形成(大庭三庭)
1 前近代の東南アジア
2 近代化の波
3 独立への胎動
第2章 国民国家の時代(中西嘉宏)
1 さまざまな独立
2 政治経済の発展
3 社会と自然の変化
4 冷戦と熱戦
5 21世紀への助走
第II部 国家
第3章 政治体制の変動 民主主義は持続可能か?(玉田芳史)
1 体制変動の軌跡と要因
2 3つの事例
3 今度どうなるのか
第4章 経済成長と政治 国が豊かになるための条件は何か?(高木佑輔)
1 成長する東南アジア経済
2 成長の共有とその限界
3 躍動する経済と政治
4 成長を支える政治は加速するか?
第5章 汚職・腐敗問題 なぜなくならないのか?(小山田英治)
1 汚職問題とは?
2 東南アジアにおける汚職事情
3 社会に根を張る汚職・腐敗の構造
4 東南アジアの汚職・腐敗スキャンダル──マレーシアの1MDB事件
5 東南アジア諸国による反汚職取り組みとその成果
6 東南アジア諸国における汚職対策の今後の課題
第6章 政軍関係 文民統制こそが非常識?(本名純)
1 政軍関係と文民統制
2 政治的な軍の誕生と変容
3 国防以外の仕事で忙しい軍人たち
4 民主化と軍改革──インドネシアの事例
5 21世紀の質の悪い政軍関係
6 変革の可能性
コラム1 コロナと裏社会(本名純)
第III部 社会
第7章 ジェンダー 格差をなくす政治は可能か?(見市健)
1 東南アジア社会におけるジェンダー間の格差
2 ジェンダーの格差はどのように強化されるのか
3 対抗的なジェンダー規範の提示
4 社会変化の兆し
第8章 暴力と平和 民族・宗教紛争はなぜ起きるのか?(中西嘉宏)
1 紛争を学ぶ
2 東南アジアにおける紛争の全体像
3 紛争の実像
4 平和構築という課題
5 紛争を理解し、防止する
コラム2 ゾミア(中西嘉宏)
第9章 環境と政治 民主主義は環境を守るのか?(藤田渡)
1 東南アジアの森林と政治
2 現代の森林の政治──インドネシアとタイ
3 地域を越えた森林の政治はどこに向かうのか
第10章 デジタル化 オンライン空間は民主的か?(岡本正明)
1 デジタル化のインパクト
2 東南アジアの民主化を促すインターネット
3 民主主義を損ないかねない空間としてのインターネット
4 社会を監視・抑圧・操作するデジタル・ツール
5 デジタル社会の可能性
第IV部 国際関係
第11章 ASEAN 地域協力のための制度とは?(鈴木早苗)
1 ASEANとは何か
2 善隣友好と内政不干渉原則
3 経済統合の深化をめぐる問題
4 対外行動
5 これからのASEAN
第12章 東南アジアと日本 両者の関係はどのように変化してきたのか?(大庭三庭)
1 変化する日本・東南アジア関係
2 1990年代──変化の予兆
3 2000年代──求心力を増す東南アジアとの連携強化
4 多極化時代の到来と日・東南アジア関係
5 日・東南アジア関係はどこに向かうのか
コラム3 東南アジアの対日観(岡本正明)
第13章 東南アジア諸国間関係 中小国が国際関係を動かす?(青木(岡部)まき)
1 なぜ東南アジアを主語として国際関係を語るのか
2 南シナ海問題をめぐる国際関係
3 メコン川流域開発協力をめぐる国際関係
4 能動的な国際関係のプレイヤーとして
コラム4 グローバル・サウス(大庭三庭)
引用・参考文献
人名索引
事項索引
