スペシャルセミナー「埋め込まれた寡頭制? ―インドネシアにおけるクリーンエネルギー転換と資源搾取の政治経済学」 | 京都大学 東南アジア地域研究研究所

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スペシャルセミナー「埋め込まれた寡頭制? ―インドネシアにおけるクリーンエネルギー転換と資源搾取の政治経済学」

発表者: 上砂考廣(ケンブリッジ大学開発学研究所博士課程)
コメンテーター: 小西鉄(福岡女子大学)

要旨:
本報告は、報告者が博士論文のために2023年10月から2024年7月にかけて実施したインドネシアでのフィールドワークをもとに、グローバルなクリーンエネルギー転換が希少金属を保有する国に与える政治経済的影響について、インドネシアのニッケル資源とそれに基づく産業化を対象に、そのメカニズムを解明するものである。グローバル市場の転換と国内政治体制に関する研究はこれまで国際政治経済学(IPE)の分野で多くの研究が蓄積されてきた。しかし、これらの研究がグローバル経済における国内政治制度の重要性を強調する一方で、IPEの理論は、その国内政治経済分析に関しては極めてマクロかつ表面的な実証研究に依拠しており、特に中央地方関係やインフォーマルな政治構造に関する分析を欠いている(Rogowski, 1990; Lake, 2009; Milner,2020)。また、比較政治学及びインドネシア政治研究では、民主化後にオリガーキーによる政治経済資源の独占がWinters(2011)やRobison & Hadiz(2004)らによって論じられてきたが、彼らの研究は民主主義への体制転換とオリガーキー生存に主眼がおかれており、グローバルな市場転換における国内オリガーキーの機能については建設的な議論が極めて少ない。

本研究は、ジャカルタ、ジョグジャカルタ、北マルク州、中央スラウェシ州、東南スラウェシ州で収集した一次資料とインタビューに基づき、IPEとは真逆に「ローカル→ナショナル→グローバル」の順にエネルギー転換と資源搾取の問題を分析することで、市場転換における搾取の構造としての「埋め込まれた寡頭制(?)」の理論化を試みる。20世紀後半に東アジアを中心に天然資源に乏しい国家が開発国家として台頭したのと対照的に、インドネシアはニッケルという豊富な天然資源に基づく産業化(「下流化」)を指向しており、そこにおける中央レベルでの経済ナショナリズムと地方レベルにおける資源ナショナリズムをめぐる搾取の構造を鉱物資源オリガーキーやマフィアの役割に着目して、「クリーン」エネルギー転換における「汚れた」政治が、フォーマルな制度とインフォーマルな制度の両方を通じていかに搾取の構造を生み出してきたを解明したい。

発表者プロフィール:
ケンブリッジ大学 開発学研究所博士候補生(PhD Candidate)。専門は比較政治学、国際政治経済学及び東南アジア政治(インドネシア・東ティモール)。関西大学卒業後、2016年大阪大学国際公共政策研究科修士課程修了(総代)、2020年ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス政治学部修士号取得。これまで東ティモールとインドネシアをフィールドにナショナリズムや寡頭制(オリガーキー)、天然資源と産業政策をめぐる政治経済等に関する研究を行なってきた。主な論文はIndonesia, Nations and Nationalism 及びRoutledge Handbook of Nationalism in East and Southeast Asia等に掲載。2021年米国アジア学会パタナ・キティアルサ賞受賞。