サメやエイの仲間である軟骨魚類が水中でどのような一生を送っているのか、その生態はまだほとんど明らかになっていません。木村里子准教授らの研究グループは、この軟骨魚類の生態解明の一環として、生物の染色体末端に存在し、細胞の老化や寿命に関係すると考えられているテロメアに着目した研究を海遊館と共同で実施しました。
テロメアは真核生物の染色体末端に存在し、塩基配列TTAGGGの反復によってゲノムの安定性を高めています。一般的に細胞分裂を伴うDNAの複製時にテロメアの長さが短くなりますが、外的なストレスにより活性酸素がDNAを損傷する際にも短縮が起こります。そのため、テロメアの長さの変化は、個体の慢性的な疾患やストレス反応を評価するのに利用できると考えられています。
軟骨魚類は、成長や成熟がゆっくりで長寿命であることが知られており、このことはテロメアの長さや性質と関係があるのではないか?と考えられてきました。しかし、軟骨魚類約1300種のうちテロメアの長さが報告されているのは12種にすぎません。そこで本研究では、新たに17種の軟骨魚類を対象としてテロメア長の測定を試み、酸化ストレスおよび抗酸化力の定量的評価を行いました。
その結果、ほとんどの種で、40kb以上のメガテロメアと呼ばれる非常に長いテロメアの配列が存在することがわかりました。また、酸化ストレスの値は非常に低いことがわかりました。以上は仮説を裏付ける結果ですが、一方、ゾウギンザメの酸化ストレス値が他種より有意に高いことも明らかとなりました。これは、本研究で扱った種のうち、ゾウギンザメのみが全頭亜綱であり、他の種が属する板鰓亜綱と系統的に異なることに由来するかもしれません。今後、軟骨魚類のテロメアの性質や酸化ストレス、抗酸化力との関係について、さらなる調査が求められます。
この研究成果は学術雑誌Fisheries Scienceに掲載されました。
研究者よりひとこと
本研究は、海遊館と海遊館海洋生物研究所以布利研究センターで飼育されているサメ、エイなどを対象として、採血検査で得られる血液の一部を利用して実施されました。コロナ禍にもかかわらず共同研究を実施できたことに、ご協力くださったすべての皆様に改めて感謝申し上げます。
研究者情報
木村里子 京都大学教育研究活動データベース
書誌情報
タイトル | Detection of telomere length and oxidative stress in Chondrichthyes |
著者 | Misaki Hori, Satoko S. Kimura, Yuichi Mizutani, Yoshimi Miyagawa, Konomi Ito, Nobuaki Arai, Yasuaki Niizuma |
掲載誌 | Fisheries Science |
DOI | 10.1007/s12562-022-01633-x |