〈研究成果の公開〉人間活動がスナメリの行動に与える影響の一端を解明──船舶音の有無、昼夜の違いに応じたエコーロケーションクリックの特性変化 | 京都大学 東南アジア地域研究研究所

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〈研究成果の公開〉人間活動がスナメリの行動に与える影響の一端を解明──船舶音の有無、昼夜の違いに応じたエコーロケーションクリックの特性変化

2023.09.14

近年、海洋開発や経済活動の発展に伴って、海洋での人為音の増加が確認されています。人為音は海洋生物の中でも特に、音を用いてコミュニケーション、エコーロケーションを行っているイルカ類への影響が大きいと考えられ、問題視されています。小川真由氏(京都大学大学院農学研究科博士後期課程)と木村里子准教授の研究チームは、これまで影響評価が行われてこなかったスナメリのエコーロケーションクリックスの鳴音特性に着目し、船舶騒音の有無による影響を調べました。スナメリは、日本を含むアジア沿岸域に生息し、絶滅危惧種に指定されるイルカ類の一種です。定住性が強く、人為的影響を受けやすいと考えられています。

調査地で観察されたスナメリ
水族館で撮影されたスナメリ

船舶航行量が多い地点と船舶航行量が少ない地点の計2地点でスナメリの鳴音特性を録音、解析した結果、船舶音の有無における鳴音特性の変化は地点によって異なっていました。船舶航行量が多い地点では鳴音特性の変化量が小さいのに対して、船舶航行量が少ない地点では、鳴音特性の変化量が大きいことがわかりました。これは、船舶音への慣れの影響ではないかと考えられました。また、船舶音の有無よりも昼夜の違いのほうが鳴音特性に強く影響を及ぼしていました。夜間は得られる視覚情報が減少するため、音から得られる情報を増やすために鳴音を変化させているのではないかと考えられます。スナメリが船舶騒音から受けている影響については、今後さらに行動観察や長期的モニタリングを行い、慎重に議論していきたいと考えています。

この研究成果は学術雑誌PLoS ONE(8月4日付)に掲載されました。

研究者よりひとこと

日本に住む我々にとって最も身近なイルカの一種であるスナメリについて、人間活動が与える影響の一端を知ることができました。今後も継続して研究活動を行い、スナメリと人間の共存を目指していきたいです。研究活動に協力いただいた皆様にこの場を借りて感謝申し上げます。(小川)

コロナ禍でどうなることかと思いましたが、様々な方のご協力のもと国内でデータ取得を継続することができ、論文出版に至ることができました。ご協力くださったすべての皆様に改めて感謝申し上げます。(木村)

研究者情報

小川真由 ORCiD
木村里子 京都大学教育研究活動データベース

書誌情報

タイトルVariations in echolocation click characteristics of finless porpoise in response to day/night and absence/presence of vessel noise
著者Mayu Ogawa, Satoko S. Kimura
掲載誌PLoS ONE
DOI10.1371/journal.pone.0288513