2型糖尿病の広がりは世界的な健康危機であり、インドネシアは患者数で世界第5位に位置しています。この課題に対処するため、ハサヌディン大学薬学部のフィルザン・ナイヌ教授の指導のもと、同学部ハエ研究グループ(Unhas Fly Research Group: UFRG) のムカッラム・ムジャヒド氏とナディラ・プラティウィ・ラタダ氏、そしてオフィンニ ユディル特定助教(京都大学白眉センター特定助教)は、小さくも強力な味方─ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)に注目しました。
この研究チームは、ヒトと共通の2型糖尿病に関与する生物学的経路を標的とすることで、ショウジョウバエを動物モデルとして活用するスクリーニングのパイプラインを開発しました。このアプローチにより、広範な設備と長期にわたる実験を必要とするマウスなどの哺乳類モデルへの依存が軽減されるとともに、生物医学研究と特許取得に関して存在するグローバルサウスとノースの間の不平等を是正する可能性も広がります。
ショウジョウバエは短いライフサイクル、ヒトとの高い遺伝的類似性、そして精密な遺伝子操作が可能であるといった特徴を持ちます。これらの利点により、特にインドネシアの豊かな民族薬理学的知識に根ざしたハーブ由来化合物のスクリーニングに理想的なモデルとなります。
本研究は、2024年11月に開始されたハサヌディン大学薬学部と京都大学東南アジア地域研究研究所との共同研究協定 に基づく初の成果です。
本研究は学術雑誌「Frontiers in Pharmacology」(2025年7月31日付)に掲載されました。

迅速かつ効率的なスクリーニングを可能にします

実験室では、フィルザン・ナイヌ教授がチームを率いています
共著者からひとこと
インドネシアの私の家族の中にも、2型糖尿病を患っている者が複数おり、糖尿病薬に日常的に頼っています。しかし、多くの薬には副作用があり、そのため別の薬へと切り替えることがよくあります。
新たな治療選択肢の発見は非常に重要ですが、決して簡単なことではありません。というのも、それは動物実験に大きく依存しているからです。インスリンは糖尿病の犬を用いた実験を通じて発見され、その後多くの糖尿病薬もマウスを使った研究により承認されてきました。ショウジョウバエを活用することは、スクリーニングをより迅速かつアクセスしやすくする効率的な戦略と言えます。
ナイヌ教授とハサヌディン大学UFRGのチームは、インドネシアにおけるショウジョウバエを用いた創薬研究の先駆者です。彼らと協働できることを深く光栄に思うとともに、このアプローチがハーブ由来化合物を含む新たな有効候補薬の発見につながることを期待しています。
インドネシアには、医療的可能性を秘めた天然化合物資源が数多く存在しています。ショウジョウバエを活用することで、伝統医療の検証を可能にするだけでなく、創薬の民主化、すなわち包摂的かつ公正な科学的貢献の促進にもつながります。そしてそれは、私たちインドネシア人にとって、地域の知恵に根ざしつつ、世界的なインパクトを持つイノベーションへと発展する可能性を秘めているのです。(オフィンニ ユディル)
研究者情報
オフィンニ ユディル 京都大学教育研究活動データベース
書誌情報
| タイトル | Drosophila-based screening of herbal compounds targeting FOXO signaling pathway in type 2 diabetes mellitus |
| 著者 | Mudjahid M, Latada NP, Ophinni Y, Nainu F. |
| 掲載誌 | Frontiers in Pharmacology |
| DOI | 10.3389/fphar.2025.1621414 |
問い合わせ先
<研究内容に関する問い合わせ>
京都大学東南アジア地域研究研究所(京都大学白眉センター)
特定助教 オフィンニ ユディル
E-mail: yophinni [at] cseas.kyoto-u.ac.jp([at]は@に置き換えてください)
<広報に関する問い合わせ>
京都大学東南アジア地域研究研究所
広報委員会
問い合わせフォーム: https://bit.ly/4dAtaj9