少子化は日本だけでなく、中国においてもますます加速し、止まるところを知りません。中国ではしばしば、次のように指摘されてきました──「若者には伝統的な家族観がなく、わがままだから子どもを産まないのだ」。しかし、本当にそう言えるのでしょうか。翟亜蕾准教授の研究は、この道徳的評価をデータにもとづき可視化し、因果的に検証する試みです。
具体的には、「養児防老」(老後の保障のために子をもつこと)、「傳宗接代」(家系の継承)、「多子多福」(子が多いほど祝福が多い)といった「儒教的家族主義」を定量化した指標として構築し、因果推論の手法によって、「伝統」に根差し、家族を重視するほど子どもを多く望むのかを検証しました。
結果はノーです。一見すると意外ですが、儒教的家族主義に強く同調することは、「2人以上の子どもを望む意向」を有意に高めていません。とりわけ若年女性では、強い伝統的家族観が子どもは「1人で十分」という選好と因果的に結びつく傾向が確認されます。さらに、現金給付や減税、保育の拡充といった政策シナリオによるシミュレーションを用いた場合でも、残念ながら、2人以上の子どもを望む意向は大きく上昇しませんでした。
なぜでしょうか。そのメカニズムについて推論すると、儒教的家族主義という規範が、単に「母になる」ことだけでなく、「よき母であること」をも求めるからだと考えられます。この規範の圧力が、子どもの将来の教育・就業の不確実性と重なることで、時間コスト・キャリア上の不利益・育児リスクを同時に押し上げ、「家族重視」であるほど、2人目に踏み出しにくくなるのです。
本研究は学術雑誌Journal of Family Issuesに掲載されました。
著者よりひとこと
出産・育児への不安は、時間コストやキャリア上の不利益だけに由来するわけではありません。より大きいのは、中国のような超競争的な社会における子どもの将来への不確実性です。つまり、利己心によるものではなく、過重な責任と過酷な社会環境の帰結と言わざるを得ません。多くの女性は自分の都合から出産を控えるよりも、生まれてくる子どもが自立し尊厳をもって生きられる将来を望むがゆえに、踏みとどまっているのです。
研究者情報
翟亜蕾 京都大学教育研究活動データベース
書誌情報
| タイトル | High Confucian Familism Adherence but Low Fertility Intentions: Evidence From the Lowest Fertility Rate City in China |
| 著者 | Yalei Zhai |
| 掲載誌 | Journal of Family Issues |
| DOI | 10.1177/0192513X251379010 |
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准教授 翟亜蕾
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