
VISITOR’S VOICE
Interview with CSEAS Visiting Scholars
Visitor’s Voice is a series of interviews to showcase our fellows while they stay with us at CSEAS
VISITOR’S VOICE
October 2025
東南アジア史における女性の声を伝える
ヴィナ・A・ランソーナ
ハワイ大学マノア校
CSEAS招へい研究員(2025年9月~12月)

PROFILE
フィリピンにおける女性、革命、抵抗運動の知られざる物語を明らかにする歴史家。学術と実体験を結びつけ、過去が現代社会をどのように形作り続けているかについて深い洞察を提示している。
はじめに
Introduction
— これまでのご自身の歩みについて教えてください。
私はフィリピンの戒厳令時代に育ったため、「戒厳令期に育った世代(Martial Law baby)」と言われることが多いです。しかし、私がより大きな社会運動に参加できると気づいたのは、高校時代、そして大学時代になってからでした。その結果、私は政治組織の一員となり、マルコス独裁政権を終わらせた「ピープルパワー」革命に参画しました。大学を卒業した後、新しいフィリピンの希望と可能性を信じて、コリー・アキノ政権に加わりました。しかし、すぐに理想は打ち砕かれ、私はアメリカで大学院への進学を決意しました。私は常に、歴史には社会を変える力があると信じてきました。ハワイ大学マノア校の歴史学教授として、そして現在は京都大学東南アジア地域研究所の研究員として、今でもその力を信じています。
研究について
About Research
— これまでの研究で最も興味深かった点や、やりがいを感じた点は何ですか?
フィリピンのフク反乱における女性の役割に関する最初の著書の執筆にあたり、私は反乱に参加した100人以上の女性(そして男性)にオーラル・ヒストリー(口述史)のインタビューを行いました。歴史家として、私はオーラル・ヒストリーは挑戦であると同時に貴重な機会でもあると思っています。自分が研究している出来事を実際に経験した人々の物語を聞き、それを伝えることができることは、この上なくやりがいのあることです。オーラル・ヒストリーは過去と現在をつなぐ架け橋となるのです。
研究の醍醐味
Research Inspiration
— 研究で出会った印象的なひと、もの、場所について、エピソードを教えてください。
最初の著書の執筆にあたり、第二次世界大戦中にゲリラとして活動し、戦後はフィリピンで反乱に参加した多くの素晴らしい女性たちに会いましたが、その中でもセリア・マリアーノ・ポメロイ(Celia Mariano-Pomeroy)と出会い、知り合ったことが私の人生に最も大きな影響を与えたと思います。セリアは、共産主義フク運動の政治局の一員であった唯一の女性で、10年間投獄され、その後英国に亡命しました。彼女は私が最初にインタビューを行った人物で、ロンドン郊外に静かに暮らしながらも、世界の政治情勢に通じ、強い情熱を抱く、小柄で優雅、そして素晴らしい女性だったことを今でも覚えています。彼女は温かく、母性的で、本当にインスピレーションを与えてくれる人でした。そして、彼女は政治や私生活について、私に惜しみなく語ってくれました。彼女と時間を過ごしたことで、セリアのような人々の、勇敢で素晴らしい人生を記録し、伝えることができる歴史家になりたいという志を一層強くしました。
社会を動かす研究
Societal Impact
— ご研究は、現状の課題解決にどのように役立つでしょうか?
フィリピンの歴史における女性とジェンダーに関する研究を通して、フィリピン社会の形成において女性が果たした重要でありながら、しばしば軽視されてきた役割を認識する上で、一定の貢献ができていると考えています。第二次世界大戦では、女性は常に犠牲者として描かれてきましたが、私の研究は、その認識に意を唱え、歴史における女性の強靭さだけでなく英雄的行為をも明らかにしています。女性を歴史の記録に刻むことは、歴史的出来事をより包括的に理解することを可能にするだけでなく、女性たちにふさわしい名誉と歴史上の地位を与える機会となるので、最終的に社会に利益をもたらすと私は感じています。
研究を超えて
Life Beyond Research
— これまでの人生で一番の困難や挑戦は何でしたか?
私は歴史が大好きで、特に過去の物語を語ることに魅力を感じていたため、博士号を取得し、研究者としてのキャリアを追求しようと思いました。教授として、研究に取り組み、その知識を学生に伝えることが大好きです。しかし、アメリカの大学でテニュア(終身在職権)を得ることがいかに困難で挑戦的なことなのか、当初は気付いていませんでした。こうした願望だけでは不十分で、特にアメリカの学術界で有色人種の女性として働く場合は、常に自分の力を証明し続け、自分に向けられる印象や偏見にも向き合う必要がありました。言うまでもなく、懸命な努力と多くの人々のサポートのおかげで、私はテニュアを得て、自分の好きなことを続けることができています
次世代を担う研究者へ
Advice for the Next Generation
— 若手研究者や、あなたと同じ分野の研究者を目指す人へアドバイスをお願いします。
若い学者たちに私が伝えたい一番のアドバイスは、粘り強く取り組むことです。研究者やアカデミックの道は必ずしも簡単なことではありませんが、自分の好きなことをすることで得られる充実感は、それだけの価値があります。若手研究者にはさまざまな困難がつきものですが、一度それらのハードルを乗り越えると、旅や冒険、志を同じくする仲間との出会いに満ちた素晴らしい人生が待っています。諦めずに常に周囲からのサポートを求め、その支えに感謝しましょう。そうすれば、必ずあなたを支えてくれる人が現れます。
未来への展望
Looking Ahead
— 次はどのような研究をお考えですか?
これからも、フィリピンにおける女性とジェンダーの歴史についての研究を続ける予定です。結婚と離婚の社会史に関する私の研究が、これらの問題についての現在の国内の議論に何らかの形で貢献できたらと思っています。フィリピンは、バチカン市国以外で、離婚が依然として違法とみなされている唯一の国なのです。フィリピン人、特に女性が離婚を申請できた歴史を伝えることで、新たな可能性を提示できればと考えています。また、他にもたくさんの研究アイデアがあるので、それらにも取り組んでいきたいと考えています。
※ この記事の内容および意見は執筆者個人の見解であり、京都大学東南アジア地域研究研究所の公式な見解や意見を示すものではありません。
ヴィナ・A・ランソーナ
ハワイ大学マノア校歴史学部の准教授、同大学フィリピン研究センターの元所長。ニューヨークのニュースクール大学で修士号、ウィスコンシン大学マディソン校で東南アジア史の博士号を取得。専門は近代東南アジアで、植民地主義とポスト植民地主義、ジェンダー、女性、革命など、さまざまなテーマについて教育と研究を行っている。現在は、植民地時代のフィリピンにおける結婚と離婚の社会史を研究する。
研究や歴史観について詳しく知りたい方はこちらのインタビューをご覧ください
ハワイ大学マノア校のウェブサイトはこちら
Visitor’s Voiceは、CSEASに滞在しているフェローを紹介するインタビューシリーズです。彼らの研究活動にスポットを当てながら、研究の背景にある人々やさまざまなエピソードを含めて、一問一答形式で紹介しています。

