機能性食品の栄養素が健康に寄与することに疑いはありませんが、食品の「構造そのもの」が代謝に及ぼす影響とそのメカニズムについては、いまだ多くが解明されないままです。この課題に取り組むべく、パジャジャラン大学のソウヴィア・ラヒマ博士およびサム・ラトゥランギ大学のトリナ・エカワティ・タレイ教授を中心とするインドネシアの研究者たちが、オフィンニ ユディル特定助教(京都大学白眉センター特定助教)、山田千佳 本研究所准教授、および慶熙大学の研究チームと共同で統合レビューを実施しました。
食品の組成や物理的構造を総称して「食品マトリックス」と呼びます。本研究では、この食品マトリックスが栄養素の消化・吸収、さらに代謝経路への利用をどのように規定するのかを検討しました。
著者らは、食物繊維、ポリフェノール、オメガ3脂肪酸、発酵食品など、生理活性成分を多く含む食品に関する実験研究および臨床研究のエビデンスを整理しました。その結果、これらの成分が糖代謝、脂質バランス、炎症、そして腸内マイクロバイオームの活動を調節することで代謝制御に寄与することが示されました。これらは、肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病などの疾患に対する重要な保護因子となり得ます。
さらに本レビューは、宿主の遺伝的多様性、エピジェネティックな因子、およびマイクロRNAなどの調節分子により、同一の食事介入に対する個人の反応が異なり得ることを強調しています。こうした生物学的差異を解明することは、個々の代謝プロファイルに合わせた精密栄養戦略の開発に貢献すると期待されます。
本研究は、2024年に締結されたサム・ラトゥランギ大学と本研究所との研究協力協定に基づく最初の成果です。本論文は「Journal of Functional Foods」(2026年3月6日付)にオンライン掲載されました。

機能性食品の生理活性成分の供給源として注目されている。著者調理。

第49回(2025年)東南アジアセミナー の際、レストランにて。
共著者からひとこと
慢性代謝疾患の負担は、インドネシアなど急速に成長する経済圏において特に深刻です。こうした地域では、座位中心の生活習慣への移行と高カロリー食の急速な普及が、これらの疾患の蔓延を加速させています。生理機能を調節し、慢性疾患リスクを低減しうる生理活性成分によって広く定義される機能性食品という概念は、こうした慢性疾患リスクの低減に向けた有望な手段として、ますます注目を集めています。
ゲノム研究を専門とする立場から、本レビューを通じて栄養科学の分野に触れることは非常に示唆に富む経験でした。ゲノミクス・メタボロミクスからマイクロバイオーム解析に至るマルチオミクスアプローチと栄養科学をより緊密に統合し、食事と人体生物学の相互作用をより精緻に解明していくべきとする本レビューの結論に、私は全面的に同意します。
この必要性は、東南アジアのような地域において特に切実です。東南アジアには発酵食品をはじめとする多様な食品文化が存在し、その食品構造(食品マトリックス)はグローバル・ノースの食品とは異なります。しかし、これまでの研究は主に栄養素に焦点を当ててきたため、食品マトリックスの影響はいまだ十分に検討されていません。例えば、納豆とテンペはともに大豆発酵食品で栄養成分には多くの共通点があるものの、食品マトリックスは大きく異なります。そのため、体内での消化・吸収や代謝への影響も同一とは限りません。また、地域間で異なるのは食品だけでなく、今回のレビューで重要な因子として明らかになったヒト側の遺伝とそれによって規定される代謝機能にも当てはまります。東南アジアの高度に多様な集団のゲノム知識基盤および変異データベースは依然として著しく不足しています。地域の研究者やコミュニティとの継続的な共同研究が、この地域に固有の伝統的機能性食品がもたらす健康上の利点について、新たな知見を明らかにすることを期待しています。(オフィンニ ユディル)
出版情報
| タイトル | Functional foods and dietary matrices for metabolic improvement: an integrative review of mechanisms, evidence, and future directions |
| 著者名 | Rahimah S, Tallei TE, Savitri M, Yamada C, Kim HJ, Choi M, Park MN, Ophinni Y, Kim B. |
| 掲載誌 | Journal of Functional Foods |
| DOI | 10.1016/j.jff.2026.107240 |
研究者情報
オフィンニ ユディル 京都大学教育研究活動データベース
山田千佳 京都大学教育研究活動データベース
問い合わせ先
<研究内容に関する問い合わせ>
京都大学東南アジア地域研究研究所(京都大学白眉センター)
特定助教 オフィンニ ユディル
E-mail: yophinni [at] cseas.kyoto-u.ac.jp([at]は@に置き換えてください)
<広報に関する問い合わせ>
京都大学東南アジア地域研究研究所
広報委員会
問い合わせフォーム: https://bit.ly/4dAtaj9